ログイン ログアウト 登録
 無の文化と教育6 Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
Onlineスクール言葉の森・サイト Onlineスクール言葉の森
記事 1346番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2025/12/15
無の文化と教育6 as/1346.html
森川林 2011/09/05 18:47 





 欧米の有の文化では、教材とカリキュラムを充実させることによって、教育が一部の裕福な人たちだけのものになりました。教える「物」が前面に出ると、持つ者と持たざる者の格差が生まれるのです。

 これに対して、日本では、教える方法が重視されました。「物」ではなく「事」が中心になることによって、貧富の差も男女の差もなく、誰もが自由に享受できる教育になったのです。

 これが、欧米と日本で教育の普及に大きな差が生まれた要因です。



 今、インターネットの普及によって、教える教材としての「物」は、物の性質を弱め、情報の性質を強めつつあります。これは確かに社会の進歩です。現代では、インターネットの情報に関する限り、持つ者と持たざる者の差は生まれにくくなっています。しかし、教材が書物の形からデジタル情報の形になったとしても、教材という「物」を教育の中心とする限り、その教育は有の文化の延長にあります。



 対象を重視するのが有の文化で、方法を重視するのが無の文化です。この二つの文化の違いは、欧米と日本の宗教の違いにも表れています。(ここで、少し話が横道に入りますが)



 中世のキリスト教は、ラテン語の聖書によって聖職者だけに独占されていました。このラテン語の聖書を、大衆の理解できるドイツ語の聖書に翻訳したのがルターの宗教改革の意義でした。



 このルターの改革を現代の教育にあてはめると、教材をだれでも利用できるようにインターネットで公開することと同じ意味を持っていると思います。教材や教典の大衆化というのは、社会の進歩のひとつのあり方です。



 しかし、無の文化の進歩は、そうではありません。日本では、宗教の大衆化は、教典の大衆化という方向ではなく、実践の大衆化という方向に進みました。それが、念仏であり、托鉢であり、トイレ掃除のような下座行の日常化でした。



 知識や思考は頭の一部を使うだけですが、実践は人間の全体を使います。実践という全体の反復によって曇りや汚れを拭い取り、本来の人間が持つている仏性を開花させるというのが、日本の宗教の改革者たちが目指した方向でした。

 教典の大衆化が有の文化の宗教の進歩だとすれば、実践の大衆化が無の文化の宗教の進歩だったのです。

 それは、何度も繰り返しますが、有の文化が、個人が「有り」、教典という対象が「有り」、個人がその教典を摂取するという考えを前提にしていたからです。

 無の文化は、これに対して、個人は「無く」、教典も「無く」、すべてはもともと備わっている全体の一部であり、その全体を明らかにするために更に自分も教典も無化して全体につながると考えるのです。



 この無の文化の伝統は、教育にも生きています。教材という知識を身につけることを目的にするのではなく、反復という全体的な実践を目的とし、その結果として教材が自然に身につくという方法を、江戸時代の教育は実現していたのです。



 反復という方法は、日本の型の文化とも深く結びついています。反復によって身につけるものは、反復している当のものであるよりも、その対象を入れる枠組みとなる型です。

 型を身につければ、中身は自ずから満たされるというのが、日本人の教育方法に流れている人間観だったのです。(つづく)



コメント欄

コメントフォーム
無の文化と教育6 森川林 20110905 に対するコメント

▼コメントはどなたでも自由にお書きください。
ふへほま (スパム投稿を防ぐために五十音表の「ふへほま」の続く1文字を入れてください。)
 ハンドルネーム又はコード:

 (za=森友メール用コード
 フォームに直接書くよりも、別に書いたものをコピーする方が便利です。
同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
日本(39) 無の文化(9) 
コメント1~10件
森リン大賞が示 森川林
作文力を上達させるコツは、褒めることでも直すことでもなく、書 12/13
記事 5398番
作文コンクール 森川林
 子供たちの教育で大事なのは、知識の詰め込みではなく、読書と 12/10
記事 5395番
読書と作文が子 森川林
 小学生時代は、勉強よりも読書。  中学生以上は、勉強と同 12/9
記事 5394番
子どもの文章力 森川林
今の受験は知識の詰め込みの勉強になっています。 考える問題 12/8
記事 5392番
作検研究。森リ 森川林
作文は、褒められても注意されても、そこに客観的な基準がなけれ 12/7
記事 5391番
「作文検定」「 森川林
 今は、AI社会の前夜。  昔は新聞やテレビが中心だった。 12/7
記事 5390番
AI時代に子ど 森川林
AI時代には、先生の役割は「教えること」ではなくなります。 12/6
記事 5389番
【合格速報】順 森川林
Rさん、合格おめでとう!! よくがんばりましたね。 受験 12/4
記事 5387番
森リン大賞9月 森川林
 従来の作文評価は、小学校低学年では「正しい表記ができている 11/9
記事 5382番
作文の学習で大 森川林
 「何でも自由に書いてごらん。いつでも褒めてあげるから」とい 11/7
記事 5381番
……次のコメント

掲示板の記事1~10件
「給与の決め方 佐藤隆
経営者・経営層の皆さまへ 突然ですが、御社の人件費?? 12/12
森の掲示板
3I/atla 森川林
日本にはかつて穏やかに何万年も続いた縄文文明があった。そのよ 12/12
森川林日記
Re: 11月 森川林
 これは、解き方の問題ではなく、読む力の問題です。  読解 12/5
国語読解掲示板
Re: ICレ 森川林
 ChatGPT、あまり文章うまくないなあ(笑)。  音声 12/5
森川林日記
ICレコーダと 森川林
AI時代に子どもが伸びる――全科学力クラスという新し 12/5
森川林日記
noteのペー 森川林
https://note.com/shine007 12/4
森川林日記
11月分 4  あういと
問題7と問題8が分かりません。 キーワードはわかるのですが 12/3
国語読解掲示板
Re: 森川林
 字がきれいだったのは、そのあとの日記の内容を見ると、弟が葛 11/30
国語読解掲示板
Re: 11月 森川林
 お返事遅れて失礼しました。  易しい国語問題は、「同じ言 11/30
国語読解掲示板
ともとも
小5の11月の読解検定のBの問題が誕生日だから字が綺麗だと思 11/28
国語読解掲示板

RSS
RSSフィード

QRコード


小・中・高生の作文
小・中・高生の作文

主な記事リンク
主な記事リンク

通学できる作文教室
森林プロジェクトの
作文教室


リンク集
できた君の算数クラブ
代表プロフィール
Zoomサインイン