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コミュニケーション・ラーニング(その4) as/1108.html
森川林 2010/12/28 11:54 


 作文における自己との対話とは何でしょうか。

 作文はひとりで書く作業です。だから、どういう方向に話が展開するかわかりません。お喋りの場合は、相手との掛け合いで話が進んでいきますが、作文はそれを自分ひとりの力で進めていかなければなりません。

 このときに必要なのは、全体のあらすじです。自分が書こうとしているものに熟知している場合は、文章は滞りなく進んでいきます。例えば、経験した事実をそのまま書くような文章の場合です。

 しかし、自分の書こうとしているものに未確定の部分がある場合は、文章は考えながら書いていくことになります。この考えながら書いていくときに頼りになるのが、自分が直前に書いた文との対話です。多くの場合、文章を書く人は、全体のおおまかなあらすじを頭に入れながら、個々の文は、その直前に書いた文と関連させながら書いていきます。

 この自分の書いた直前の文との対話を、もっとすっきりと対話中心にしたものが構成図を書くという方法です。自分が書こうと思うものに未確定の要素が多ければ多いほど、構成図であらかじめ考えを深めるという対話が必要になってくるのです。

 しかし、対話の土台になっているものは予備知識です。知識の少ない人どうしがいくら話を交わしても、そこから新しいものはなかなか生まれないでしょう。読む力をつけて知識の土台を広げていくことが、作文を書くための重要な前提であることは言うまでもありません。



 さて、国語力のセルフ・ラーニングということで、語り聞かせ・読み聞かせ、音読・暗唱、読書・問題集読書、作文・構成図などがあると書きました。

 この中で最も大事なものは、幼児期における語り聞かせ、読み聞かせです。

 子供がその国の言語を自然に覚えて使えるようになるのは、親が子供に語りかけることを繰り返すからです。この語りかけの反復によって、子供は、世界を文として理解する能力を絶対感覚として身につけます。

 幼児期に身につける絶対感覚には、このほかに、音楽の感覚、運動の感覚、抽象的な概念としての数の感覚、図の感覚などがありますが、最も重要なものは言語感覚です。それは、人間が生活する世界の大部分は、言語による意味づけが行われているからです。

 周囲の大人による語りかけで、幼児は文を身につけます。ここで大事なのは、個々の単語を身につけるよりも先に文を身につけるということです。なぜかというと、単語は、ある実体を言語で表すという抽象的なものですが、文は、それによって何らかの意図ある行動や結果が付随する人間的なものだからです。

 ある語りかけのあとに、ある行動が続くというのが、人間と人間の関係です。機械に物を覚えさせるには、例えば、リンゴの実体を見せて、リンゴという言葉に対応させるようにすればいいのですが(光学文字読み取り装置のような感じで)、人間はそういうわけにはいきません。「リンゴ、食べる?」(あなたはリンゴを食べますか)という文のあとに、リンゴをもらい、それを食べて味わうという身体的な結果が付随することによって、子供は、「リンゴを食べる」という文を身につける中で、「リンゴ」と「食べる」という単語も身につけます。

 このように考えると、人間の語りかけではない、機械の語りかけ、例えばテレビをつけっぱなしにして幼児に聞かせることが大きな弊害を持つことがわかります。(つづく)

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コミュニケーション・ラーニング(その3) as/1107.html
森川林 2010/12/27 11:56 


 作文を書くというのは、勉強の中で最も苦しい勉強だと思います。何が苦しいかというと、始めるときのエネルギーがほかの勉強に比べると何倍も必要だからです。特に、学年が上がって、考える力がついてくると、作文を書くことは更に苦しい勉強になります。

 夏休みの宿題で、感想文を書く課題が最後まで残ってしまうことが多いのはこのためです。文章を書くというのは、なかなか気軽に始められないのです。

 特に、学年が小5から中2のころにかけては、考える力がついてくるにもかかわらず、その考えに伴う語彙力がまだ不十分なので、書くことがいっそう苦痛になるようです。小4までは楽しい生活作文、中3からは考える小論文ということで、それなりに苦しい勉強ではあっても作文を書くことは軌道に乗りますが、ちょうどその中間の時期がいちばん大変なのです。

 この作文を書く勉強を支えるのも、コミュニケーションです。



 第一は、作文を書く前の取材です。そのテーマに沿った話を自分の身近な家族から聞くことによって、作文の材料が増えます。特に、小学校高学年のころは、課題に合った自分の体験実例が見つけにくい時期です。

 例えば、小学校高学年になると、国語の問題に日本文化の特徴というようなテーマがよく出てきます。子供は、その文章を読んで内容を理解することができますが、その内容の裏づけとなるような経験や知識はまだありません。そういうときに、両親がそのテーマに関連した自身の経験や知識を話してあげると、それが擬似的に自分の経験や知識のように使えるようになるのです。

 この取材の大切さは、小学校低中学年でも同じです。例えば、小学校中学年の身近な課題「がんばったこと」「うれしかったこと」なども、子供が自分の体験で書くだけでは、そこに深みは出てきません。単純に、がんばったことやうれしかったことを書くだけですから、どの子も似たような話になります。しかし、ここで、両親や祖父母に取材をすると、もっと味のある話を聞くことができます。そして、子供にとっては、本で読んだりテレビで見たりしたことよりも、自分の身近な家族から聞いた話の方が、子供自身の擬似的な体験として消化しやすいのです。



 第二は、作文を書いたあとのコミュニケーションです。作文を書くのが好きな子と嫌いな子の差は、書いたあとの評価の差によるものです。子供の書いた文章には、必ずどこかしら欠陥があります。内容がものたりなかったり、誤字があったり、表現が不十分だったりするところがあります。

 作文を書く方は、自分なりに完成したものを書いているつもりですが、それを読んだ大人が、ここもおかしい、あそこもおかしい、と欠点を指摘し始めると、子供はその後書く意欲を持てなくなります。これは、少し想像してみればわかります。例えば、絵が苦手な人に、「さあ、自由にかいてごらん。かいたあとたくさん欠点を教えてあげるから」と言われたら、だれも絵をかく気にはなれないでしょう。歌が苦手な人に、「さあ、自由に歌っていいよ。そのあとどこが下手なのか教えてあげるから」という場合も同じです。そういう欠点を喜ぶのは、ある程度自信がついて、自分が前向きに努力したいと思っているときだけです。しかし、そういう向上心がある人でさえ、欠点ばかりを指摘していると、どんどんできなくなっていくのです。

 作文を書いたあとのコミュニケーションは、書いた内容について楽しく話すことです。書き方について注意するのではなく、書かれた内容について話題にしてあげることが、子供の書く意欲に結びつきます。

 作文を書いたあとのコミュニケーションには、作文の発表会や文集のようなものも含まれます。発表会や文集も、それぞれの作文のよいところを見ることが大事で、他の作品との比較をすることは最小限にとどめておくべきです。



 第三は、作文を書く前の自分自身との対話です。

 「ミラーニューロンの発見」という本によると、だれでも、他人とおしゃべりをする方が、自分ひとりで講演をしたり、他人の講演を聞くことよりもずっと楽にできるそうです。これは、人間の脳に、他人を模倣し共感する仕組みがあるからです。(つづく)

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