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知能を高める教育(その3) as/180.html
森川林 2007/08/23 16:35 
 では、単に成績をよくするための勉強法ではなく、頭をよくするための勉強をするためにはどうしたらいいのでしょうか。
 それには、やはり簡単な例が参考になります。1を10回加えるときに、1+1+1+……と考える方法と、1×10と考える方法がありました。問題のレベルが低いときは、スマートな掛け算を考えるよりも、1+1+1+……と力技で計算して答えを出す方が早いことが多いのです。そして、日常生活のほとんどの場面は、この力技で処理できます。
 例えば、ある人数をいくつかのグループに分ける必要があった場合、人数が少なければ、だれかが数えて分けてしまうのがいちばん簡単なやり方です。10人を3つのグループに分けるときは、3人ずつ分けていき余った1人はどこかのグループに適当に入れれば済みます。
 しかし、百人を3つに分けるときに、これと同じ方法が取れるでしょうか。千人ではどうでしょうか。1万人ではどうでしょうか。人数が多くなったときにグループ分けする方法は、もっとスマートに考える必要があります。例えば、こういう方法です。
「それでは、1万人のみなさん。みなさんの誕生日を3で割って、余りが1の人はAグループ、余りが2の人はBグループ、余りが0の人はCグループに行ってください」
 こういう方法であれば、3万9千人の人を7つのグループに分けるなどという面倒なこともすぐにできます。しかし、日常生活では、そういう大人数を分ける必要が出てくることはまれなので、抽象的に考えるタイプの人よりも、単純に大声を出して行動力を発揮できるタイプの人の方が活躍することが多いのです。
 ところが、人間は成長するにつれて、だんだん難しい役割を担うようになります。課題が難しくなり守備範囲が広くなるにつれて、単に行動力があるだけの人よりも、思考力のある人の方が仕事ができるようになってきます。
 このように考えると、頭をよくするとは、抽象的な力を高めることだということがわかります。掛け算は、足し算よりも抽象的なので、扱う数が多くなるにつれて便利になってくるのです。
 人生も似ています。その人の生活範囲が狭くて単純なときは、行動力がいちばんです。しかし、複雑さが増すにつれて、抽象的に考える能力が必要になってきます。
 その抽象的に考える能力は、低いレベルの左脳教育ではなく、また、単に左脳の対極にある右脳教育でもなく、より高い次元の左脳教育なのです。

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知能を高める教育(その2) as/179.html
森川林 2007/08/20 15:40 
 勉強には、成績をよくするための勉強と、頭をよくするための勉強とがあります。
 成績をよくするための勉強とは、知識を追加する勉強です。頭をよくするための勉強とは、考える力をつける勉強です。
 しかし、入学試験に限って言えば、それが高校入試であっても、大学入試であっても、○○資格試験であっても、すべて知識の勉強でカバーすることができます。なぜかと言えば、出題範囲が決まっているからです。範囲が決まっている分野で、点数の差をつけるためのテストをしようとすれば、問題はどうしてもパターン化されます。テストに出される内容は、平凡で大事なことよりも、例外的で点数の差がつきやすいことが主流になってきます。(これが、現在のテスト中心の勉強の最大の弊害です)
 平凡で大事なことであれば、普通に勉強していれば十分です。しかし、例外的で差のつく勉強では、テクニックが必要になります。そのテクニックとは、現代の入試では、出そうな問題のパターンに慣れることです。
 ですから、逆に言えば、テストに合格するためのいちばん役に立つ勉強法は、過去問に当たることです。高校3年生で、よく、「過去問は実力がついてからやってみます」と言う人がいます。そうではなく、実力がないうちから、過去問に答えを書き込んで読んでおくのがいい勉強法なのです。
 さて、入学試験までは、このように過去問中心の成績をよくする勉強で間に合わせることができます。しかし、世の中には、過去問のない問題が次々と登場します。過去問も、予備校も、模擬試験もなく、突然目の前に新しい問題が登場するのが普通です。そのときに、成績をよくするための勉強しかしてこなかった人は、途方に暮れてしまうのです。
 考える力のある人は、新しい問題についても、自分なりに考えることができます。それが、抽象的な思考力です。つまり、問題を、それが問題となっている次元ではなく、一つ上の次元から考えることができるのです。
 仏陀は、ある村で、子供を亡くした母親から、「子供を生き返らせてほしい」と頼まれます。仏陀には、それができるかもしれません。しかし、子供を生き返らせたところで、問題は根本的に解決するわけではありません。世界中の子供を生き返らせ続ける展望がなければ、解決は場当たり的なものにならざるを得ないからです。そこで、仏陀は、「これまで一度も死んだ人を出したことのない家からケシの種を三粒もらってきなさい」と言います。ここに、「生き返らせる」「生き返らせない」という次元を超えた、当時可能だった最善の解決策があったと思います。
 第一次南極観測隊の西堀栄三郎は、南極に着き、いざ基地を建築する段になって、日本から釘を持ってきていなかったことに気がつきます。「基地を作ることを諦めるか」「日本まで釘を取りに帰るか」などという次元の選択肢を超えて、西堀氏は、並べた板に水をかけ、凍った水で基地を建設するというやり方を提案します。
 いずれも、具体的な低い次元の話では解決できなかったことが、より抽象的な次元では解決できたのです。抽象的な考えとは、「人間とはそもそも……」「釘とはそもそも……」という考え方です。
 この「○○とはそもそも……」と考えるためには、「○○とは」という抽象的なものを考える力が必要です。(つづく)

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