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放任と干渉の間にある方法の教育 as/723.html
森川林 2009/12/29 10:21 


 かたや、サドベリー・スクールに見られるような放任の教育があります。もちろんこの放任は、自主性のための放任ですが。

 かたや、SAPIXの授業に象徴的に見られるような上手な授業があります。優れた教師による優れた授業で生徒を引っ張るという点で、これを干渉の教育と呼びます。もちろん、この干渉は生徒の意欲を引き出すための干渉ですが。


 この放任と干渉の間にあるのが、方法の教育です。

 江戸時代は、この方法の教育によって、全国に多数の寺子屋を生み出しました。全国に多数という点で、この方法の教育が必ずしも優れた教師や優れた授業を必要としていなかったことがわかります。

 また、当時の日本は世界最高の識字率を誇っていました。世界最高という点で、この方法の教育は優れた教育でした。優れていない教師による優れていない授業によって優れた教育が生まれるというのが方法の教育の特徴です。


 この方法は、マニュアルという考えに近いものですが、実は大きな違いがあります。


 天外氏の本で面白いことが書いてありました。オペレーターの教育で、従来の方法は応答の仕方を知識として教え、その方法を実際のビデオなどで見せて研修させるものだったそうです。しかし、こういうマニュアル的なやり方よりも、はるかに高い効果を上げたのが、オペレーターが相手の声に注意を集中して応答することだったそうです。

 マニュアルは、ある水準まで全員の力をすぐに引き上げることができます。しかし、そのマニュアルによる方法では、ある程度以上は顧客の満足度を上げられません。マニュアルの限界を超える方法は、心の持ち方のようなところにあるのです。


 江戸時代における方法の教育の具体的な形は、素読や暗唱や筆写などでした。この方法は現代でも同じように有効です。

 しかし、現代は江戸時代と違って、この方法の教育を阻害する要素がきわめて大きくなっています。その阻害するものは、人工的な環境です。

 江戸時代の子供たちは、勉強以外の時間で、鬼ごっこをしたり虫捕りをしたり家の仕事の手伝いをしたりして過ごしていたでしょう。このような環境は自然の環境です。自然と関わることによって人間は成長します。

 現代の子供たちは、勉強以外の時間で、ゲームをしたりテレビを見たり漫画を見たりしています。この環境は人工のバーチャルな環境です。バーチャルな環境は、面白さという点では自然の環境に似ているか、時には自然の環境以上に魅力的なものですが、人間は人工的なものとの関わりによってはあまり成長しないのです。

 なぜかと言えば、人工的な環境はその見た目の豊かさに比べてきわめて底の浅いものだからです。例えば、実際の魚つりであれば、なかなか釣れない単調な時間があるものの、人間の工夫は無限に広がります。ゲームの魚つりではこの反対に、次々といろいろなものが釣れる刺激はありますが、人間の工夫はゲームのプログラムで作られた狭い範囲のところまでしかできません。

 この人工的な環境がマニュアルの環境です。方法が自然の環境を前提としたものであるのに対し、マニュアルは人工の環境を前提にしたものです。もちろん、この区別は相対的なものですから、より自然に近い人工的な環境というものは当然あります。しかし、大きく分ければ、方法の教育とマニュアルの教育があり、方法の教育を阻害するものは、この方法によく似たマニュアルの教育なのです。そして、このマニュアルの教育の一つが、問題集やドリルという教材に依拠した勉強です。


 昔の子供たちは、学校から帰るとすぐに遊びに行きました。日曜日などは朝から晩まで一日中遊んでいました。今の子供の多くは、学校から帰ったあとも、塾に行ったり家で勉強をしたりしています。しかし、その勉強はほとんどすべて人工的な環境によるマニュアル的な勉強です。だから、今の子供たちは昔の子供たちに比べて、勉強の量だけが増えて、頭がよくなってはいないのです。


 対策は、次のようなものになると思います。


 まず、人工的な環境を制限することです。これは、テレビやゲームやインターネットの時間をコントロールすることです。禁止するということではなく、子供が自らコントロールするということが大事です。そして、この人工的な環境には、人工的な勉強も入ります。特に低学年における問題解答方式の勉強は、ゲームと同じような人工的な要素を持っています。

 その一方で、方法の教育を行うということです。単なる放任でもなく、塾に任せる干渉の教育でもない方法の教育とは、家庭における読書、対話、暗唱などの教育です。

 この二つの取り組みによって、子供たちの生活はもっとゆとりのある楽しいものになり、同時に子供たちは今よりももっと確かな学力をつけていくと思います。



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