国語力をつけるというと、漢字の書き取りの練習をするようなことしか思いつかない人が多いと思います。
 それは、定期試験の前にでもやれば、ある程度の一夜漬けでも間に合うことです。
 そのため、日常的に国語の勉強をしている人は少ないのです。
 しかし、国語力は、漢字の書き取りのようなものではありません。
 本当の国語力は、思考力のことで、それが読解力の差となって表れてくるのです。
 2020年の大学入試改革で、国語の試験をどうするかということがやや迷走しているようですが、大きくは思考力や表現力を問うような問題に進んでいくと思います。
 実は、その中心となるのは人工知能を生かした採点の導入です。
 50字の記述問題の採点を人間がやるのは大変だとかどうだとかいう話は、やがて時代おくれになるでしょう。
 先日、新聞のコラムに、英語と日本語の通訳の人の話で、語順が異なる二つの言語を同時通訳するためには、相手の言いたいことを予測して通訳することが必要になるという話が出ていました。
 そして、そういうことはコンピューターではできないだろうというようなことが書かれていましたが、本当は、そういうことこそ、人工知能の得意とする分野です。
 人工知能は、言葉を逐語的に解釈し、それを文法にあてはめて理解するというような方法はとりません。
 言葉の集合全体を雰囲気のようなものとしてとらえ、その雰囲気が、他の言語のどういう雰囲気に対応しているかということを膨大なデータの蓄積をもとに類推していくというような方法をとるのです。
 この人工知能を利用した国語の読解力と表現力の採点が実用化されてくると、本当の国語力とは思考力であるということが更にはっきりしてくると思います。
 国語の試験問題を、当たった外れたというレベルで考えているうちは、国語力はつきません。
 すべて理詰めで解いて、国語の試験こそ満点を目指すという気持ちで解くと、国語力は急速についていきます。
 先日も、高校生の生徒で、センター試験の国語の解き方の記事を読んで理解した生徒が、それから国語の読解問題が常に満点になったという話を聞きました。
 国語力を思考力だと考えて取り組めば、これは、決して珍しいことではないのです。
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「理詰めで解く国語――センター試験を例にして」
https://www.mori7.com/index.php?e=2334
 国語の問題というのは、感覚で解くのではありません。すべて理詰めで解くのです。 
 理詰めで解けない問題は悪問です。そういう悪問もたまにはありますが、原則としてすべての問題は理屈で考えて答えを出せるようになっています。 
 ある年のセンター試験の問題で、高校生の生徒が、「これはどうして5が正解なのかわからない」という選択問題がありました。 
 設問は、「『そのような日常言語は、人によってニュアンスが異なり多義的である』とあるが、『そのような日常言語』の具体例として最も適当なものを選べ」というものです。 
 選択肢は、五つです。うち二つは明らかに×とわかるものなので、微妙な三つを載せると、 
1、山に登ると水は貴重だ。ペットボトルの水が半分残っているのを見て、ある人は「まだ半分ある。」と思うし、別のある人は「あと半分しかない。」と思う。水の分量は同じであっても、その受け止め方は人それぞれだ。 
2、略 
3、略 
4、友人とデパートの入り口で待ち合わせた。約束の時間に現れないので携帯電話に連絡すると、別の入り口にいた。「デパートの入り口で……。」という同じ言葉であっても、それぞれが思い浮かべた場所は違っていたのである。 
5、最近、家を新築したおじが、「駅から近いよ、歩いておいで。」といって、手書きの地図をくれた。「近い」というので地図をたよりに歩いたところ、かなり歩かされた。「近い」といっても人によってはだいぶ差がある。 
 正解は、5です。 
 1も4も5も、同じようなことを言っているので、なぜ1と4が正解でないかわからないという人も多いと思います。 
 1は、「ペットボトルの半分の水」と実物が対象ですから、日常言語が対象になっているのではないということで、消去法的に×なのです。 
 4は、「デパートの入り口」というのはニュアンスではなく、定義が曖昧だっただけで、北の入り口とか南の入り口とか言っていれば解決したことですから、これも消去法的に×なのです。 
 5は、「駅から近い」という日常言語のニュアンスが対象になっているので、特に間違えているところはありません。 
 この結果、最後に残った5が正解になるということです。 
 こういう理詰めの解き方を身につけるだけで、国語の成績は短期間で上がります。 
 しかし、これは国語問題の解き方のテクニックであって、本当の国語力ではありません。 
 本当の国語力とは、思考力のことです。だから、国語力を見るためには、小論文と口頭試問のようなことが必要になるのです。 
 今後の大学入試は、そういう方向に向かっていくと思います。
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