中学生の保護者のお母さんから、何件か相談がありました。「学校の成績が今一つ」というのです。頭がよくて真面目にやっていて、成績がそのわりによくないというのは、勉強の仕方に問題があるからです。毎日の勉強は、実力を向上させるためにやるものですが、それが試験の成績をよくするためにやる勉強になっているから、実力がつかず、その結果成績がよくならないのです。
例えば、英語だったら教科書の暗唱と暗写、数学だったらちょっと難しい問題の含まれている問題集で解答の解説が詳しいものを百パーセントできるようにすること、国語だったら、毎日の読書による速読力の育成と、問題集読書による難読力の育成。これらが、実力をつけるための勉強です。
この実力をつけるための勉強を最優先させることが大事なのに、子供たちの多くは、学校の日々の授業やテストに間に合わせるために勉強に時間をとられています。だから、毎日真面目に忙しく勉強しているわりに、実力がつかず、成績も上がらないのです。
中学生のころは、親の言うことは聞かずに自分でやりたがる時期ですが、まだ大きな判断力というのは育っていません。勉強の方針などは、親がアドバイスをしてあげなければ、自己流の勘違いした勉強の仕方になってしまうのが普通です。
勉強の仕方を自分で工夫できるようになるのは高校生からだと考えて、中学生のころはできるだけ親が勉強の中身を理解しておくことです。そのためには、テストが返却されたときは、点数を見るだけでなく、親が実際にその問題を一緒に解いてみて子供がどういうところができなかったのかを把握しておくといいと思います。
中学生は、塾に行っている子が多いと思います。しかし、塾に全面的に任せるのではなく、家庭では親が勉強の中身を把握しておく必要があります。中学生の勉強はそれなりに難しくなりますが、親は年の功があるので、難しい内容でも理解力は子供よりも優れています。最初は子供の方がよくできていても、何度かやっているうちに親の方が実力がついてくることが多いのです。
昔、中学3年生になる子のお母さんが言葉の森に相談に来たことがあります。「勉強の仕方がわからないので、子供は塾に行きたいと言っているが、どういうところがいいか」というのです。そこで、「勉強は、お母さんが教えたらいいですよ」と言って、特に数学の勉強の仕方を中心に詳しく説明しました。すると、それに納得したお母さんは、その子の勉強を自分で教えるようになりました。翌年、その子は実力をつけて学区のトップ高に合格したのです。後日、お母さんに聞くと、「最初はそんなことができるかと思ったが、やってみると結構できるとわかった。今では教えることに自信がついた」ということでした。
中学生までの勉強は、どんな難関校であっても、親ががんばれば教えられます。自分で教える時間がとれなくても、少なくとも勉強の内容に関しては親が理解しておくことが必要だと思います。
小3以上は毎週の作文の課題が題名課題や感想文課題になるので、家で似た話を考えてくることが準備として必要になります。
その似た話の中に、お父さんやお母さんにも聞いてくるというものがありますが、子供によっては、まるで聞いてくることが宿題のような受け身の態度になってしまう子もいます。
親に答えを教えてもらうという勉強ではなく、自分で似た話を考えるひとつのきっかけとして親にも聞くという主体的な姿勢が必要なのですが、最初のうちはなかなかそういうところまでできない子もいます。これまでの勉強のスタイルは、自分で何かをするというよりも、与えられた知識を受け身で吸収するというものが多かったので、作文の予習も自然にそうなりがちなのだと思います。
ですから、作文の課題の予習をするときのお父さん、お母さんは、次の点を心掛けながら話をしてくださるとよいと思います。
第一は、この作文の勉強は、自分で考える創造性のある子を育てる勉強だという位置づけをはっきりさせることです。単に勉強のよくできる子を育てるのではなく、どんなことにも自分なりの考えを述べられる子を育てる勉強です。
ですから、第二には、機会あるごとに、子供に自分はどう考えるのかを聞き、少しでも自分なりの考えを述べたらそれを高く評価してあげることです。ここで大事なことは、「自分の考えを言えなければだめ」というマイナスの評価をすることではありません。まだ小さい子には、自分から進んで言えないものはたくさんあります。できないことを注意するのではなく、おぼつかない言葉であっても、自分から進んで言ったことについて高く評価してあげることです。できないことを注意するのではなく、できたときに褒めるというのが大事です。
第三に、自分から進んで考える力をつけるために、お父さんやお母さん自身が、そういう対話を楽しむ姿勢を持つということです。子供に似た話を聞かれたときに、それを狭く真面目に考えて、「そんな似た話はない」とすぐにあきらめるお父さんやお母さんがいます。また、似た話がないから、インターネットで検索して調べてみるという人もいます。調べること自体はいいことですが、自分の考えを補強するために調べるのではなく、出来合いの答えを見つけるために調べるような調べ方では自分で考えていないことと同じになってしまいます。どんなテーマであっても、親が何らかの自分なりの話を楽しくしてくれるということに接するうちに、子供自身もそういう自分で考える楽しさを身につけていくのです。だから、大事なことは、似た話を子供に聞かれたときに、親はできるだけ自分の体験に結びつけて話してあげることです。
とっさに聞かれたのでは十分にいい話ができないということもありますから、できれば、お父さんやお母さんも事前に長文に目を通しておくか、毎日の子供の長文音読を聞く機会を持つといいと思います。長文を聞くと言っても、食事の支度をしながらとか、新聞を読みながらとか、そういう聞くともなしに聞くという程度でいいのです。
また、当然ですが、子供自身も長文を何度も繰り返し音読しておく必要があります。繰り返し音読をしていると、その長文がすっかり自分のものになるので、長文を見ないでも内容を説明できるようになります。そういう状態になったときに初めて似た話の対話が自由にできるようになります。従来の勉強は、1、2回読んで内容を理解して答えを書くという表面的な知識を問う形の勉強が多かったので、この繰り返し読んで自分のものにするという勉強法に子供たちはあまり慣れていません。しかし、これからの世の中で必要になるのが、こういう知識を自分のものとして消化しそこから自分なりのものを創造する学力なのです。
以上のような説明を聞くと難しく感じるかもしれませんが、要点は簡単です。まず、毎日子供に長文を音読させることです。そして、週に一度その長文の内容を子供に説明させて、お父さんやお母さんが自分なりの似た話を楽しくしてあげることです。そういう話をするうちに、子供も自分からいろいろな考えを言うようになります。そうしたら、その子供なりの考えを(多少見当違いのことがあっても)大いに評価してあげることです。
このようにして、単に勉強がよくできるだけでなく、自分なりのオリジナルな考えを述べる力のある子が育っていくのです。