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 少し汚れを残しておく掃除、山頂をめざさない山登り―知のパラダイム(その6) 言葉の森 | 作文国語教室【公式】
 
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少し汚れを残しておく掃除、山頂をめざさない山登り―知のパラダイム(その6) as/1136.html
森川林 2011/01/22 20:00 
修 削


 インドや中国では、無の哲学は、宗教や思想という形で残りましたが、文化という形ではほとんどなくなってしまいました。

 これに対して、日本では、無の哲学とともに、無の文化も生活の隅々にまで浸透し、生きた形で残っていました。それは、日本が外部から有の文化を持った異民族に侵略されることがなかったからです。

 有の文化と無の文化の対比は、庭園の作り方などに、目に見える形で表れています。ヨーロッパの庭園は、人間という主体が自然という対象に対して、人間の意図を貫徹するという形で構成されています。フランスの庭園などに見られる直線と左右対称性は、そこに人間が介在したという証拠を残すために作られたかのような印象を受けます。人間が自然を人工的に加工するというのが、有の文化における庭園です。

 これに対して、日本の庭園は、非直線、非対称性で構成されています。人間という主体をあくまでも無化して、自然が自ら造形したような庭園であることが、庭園の理想なのでした。利休は、客人をもてなすとき、落ち葉ひとつなくきれいに掃除された庭を見て、近くの木を揺すり、枯れた葉を再び庭に散らしたそうです。

 中国の道教の修行に行った森田健さんの話では、道教のグループは、近くの山に登ったとき、山頂まであと少しというところで、山頂までは行かずにそのまま山を下ってきたそうです。自分という主体が、山頂という対象に向かうと考えるのが有の文化です。山頂という目的ができたとき、登山はそのための途中の過程に過ぎなくなります。すると、山に登ることは、できるだけ速く、できるだけ能率よく登るための手段になります。有の文化は、能率の文化です。

 ところが、老子はそう考えません。自分は、山に登る前も、登っている途中も、登り終えたあとも、常にそのときどきの状況にある山との関係で完全な存在であると考えるのです。登山という目的との関係において、まだ山頂に立っていない自分が不完全だとは考えないのです。

 自分が、自分以外のもの、つまり自分の無との関係で成り立っていると考えるのが無の哲学です。山頂もまた、独立したひとつの対象ではなく、山頂以外の山腹や山麓によって初めて存在するものであると考えると、山腹も、山麓も、更には山を降りたあとの平地もまた山頂であり、山頂は求める対象ではなく、山頂を構成する無との関係としていつでも常にそこにある対象なのです。

 道教のグループは、山に登っている途中に、こんなややこしいことを考えながら登ったのでではないでしょう。しかし、老子の唱えた無の哲学を実際の体験を通して学ぶために、山頂まで行かずに戻るという行動をとったのだと思います。

 ある物は、その物以外との関係で存在します。これを更に普遍化すれば、有は、有以外のもの、つまり無との関係で存在するということになります。だから、有の本当の姿は無にほかなりません。これがインドや中国や日本で生まれた無の哲学です。

 無や空といっても、一般に思われているようなとらえどころのない抽象的な観念なのではなく、有る物にとってのその物以外のすべての世界が無や空で、その物の本質は、その物の中にあるのではなく、その物の外、つまり無や空とのつながり方にあるというのが無の考え方なのです。(つづく)



コメント欄

森川林 2011年1月24日 3時51分  ▽
 おいおい、宣伝に使うなよ(笑)。

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