ゲストさん ログイン ログアウト 登録
 「中学生からの作文技術(本多勝一)」批判(2) Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
記事 15番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/4/25
「中学生からの作文技術(本多勝一)」批判(2) as/15.html
森川林 2005/12/07 05:21 
 前回は、読点の打ち方と批評の仕方について書きましたが、今回は全体の章について書きたいと思います。

 第一章は、「かかる言葉と受ける言葉」についてです。本多氏は、「かかる言葉と受ける言葉は近いほどわかりやすい」と述べています。これはそのとおりです。例えば、「美しい水車小屋の娘」よりも、「水車小屋の美しい娘」の方がわかりやすいということです。しかし、文章の目的は、「読む側にとってわかりやすく」書くことにあるのではありません。「自分の書きたいことを読む側にとってもわかりやすく」書くことにあります。自分の書きたい順序で読み手にもわかりやすく書くために、句読点の工夫があります。シューベルトの歌曲集で、「美しき水車小屋の娘」という標題があるのは、その詩の訳者が「美しき」をまず伝えたかったからでしょう。「水車小屋の」をまず伝えたかったのなら、「水車小屋の美しき娘」となったはずです。論理的にどちらがわかりやすいかということ以前に、自分が何を先に伝えたいかということがあるのです。その上で、誤解を避けるために「美しき、水車小屋の娘」などという句読点の工夫が出てきます。決して句読点の論理が先にあって、それに合わせて語順を入れ替えればいいというのではありません。

 第二章は、「かかる言葉の順序」についてです。本多氏は、「節を先にし、句をあとに」「かかる言葉は長い順に」と述べています。これもそのとおりです。例えば、「年輪のゆたかなよく育った太い竹」の方が「太くよく育った年輪のゆたかな竹」よりもわかりやすいということです。しかし、ここでも大事なことは、書き手が何を先に伝えたいかという意識が最初にあります。「太くよく育った」をいちばん言いたいのなら、その言葉を最初に持ってくることは何もさしつかえありません。その上で誤読を避けるために、句読点の工夫をするのです。

 第三章は、「テンやマルの打ち方」についてです。本多氏は、読点は論理を明確にするためのものだと位置づけ、論理に合わないテンは間違いだと決めつけます。そうでは、ありません。読点は文章をわかりやすくするために打つものです。そのために、ある程度の論理的な裏づけが必要なのです。本多氏の作文技術では、「論理のテン」→「読み手にわかりやすく」→「語順を入れ替える」と進みますが、本当は、「自分が伝えたい語順」→「読み手に分かりやすく」→「必要に応じたテン」→「論理の裏づけ」となるのです。

 第四章は、「漢字の使い方」についてです。本多氏は、漢字とかなはわかち書きと同じ役割で、文章を読みやすくするためのものだと述べています。だから、「『漢字』にするか『かな』にするかは、その前後で適当な方を選ぶ。無理に統一してはならない」と続けます。だから例えば、一つの文章の中で「いま」と「今」が前後の関係で適当に混在していてもよいというのです。それでもわかりにくいときは、本当にわかち書きにすればよいと話は進みます。なぜ、こういう無理な論理展開になるかというと、読点を論理のテンと限定したために、漢字とかなでつじつまを合わせなければならなくなったからです。漢字とかなは、書き手の文字感覚で、書きたい方を選ぶというのが普通だと思います。「いま」と書く人はどこでも「いま」と書くでしょうし、「今」と書く人はどこでも「今」と書きます。前後の関係で漢字にするかかなにするかを決めるというルールは、多くの人にとって逆に違和感のある書き方だと思います。

 第五章は、「助詞の使いかた」についてです。「は」や「が」や「も」についての説明が書かれていますが、この章が中学生の作文技術にとって特に何か有用なものを提供しているとは思えませんでした。

 第六章は、「改行を考える」です。段落は思想の一単位だから、論理的におのずから決まってくると、本多氏は述べています。しかし、必然的に決まると言えるほど明確ではないのが段落です。書き手の考え方によって、文章は大きくくくられることもあれば、小さくくくられることもあります。本人は話が新しい段階に入ったつもりでも、ほかの人は必ずしもそうは思わない場合もあります。段落は文章を読みやすくするためにあるのです。そのために、論理的に話が変わってくるところで行を変えるのです。決して論理が先にあり、論理的であれば読みにくくてもいいというのではありません。本多氏は、サルトルの「自由への道」で一冊の本の半分にあたる一章全部が改行ゼロだった例を挙げていますが、それはサルトルが文学的な効果を意図して書いたか、よく考えないで書いたからだと思います。サルトルは、主著の一つである「弁証法的理性批判」でも、あまりよく考えを整理しないで書いている印象を私は受けました。

 第七章は、「無神経な文章」についてです。悪い文章を例に挙げて批判することは、文章の勉強を最初のうちだけは上達させます。しかし、悪い例の批判をいくら続けても、上手な文章を書けるようにはなりません。教育の基本は、よい文章を読むことによって、よい文章を書く力をつけることです。悪い文章を批判することによって、悪い文章を書かないようにすることは、教育の導入期にだけ必要なことです。そして、悪い文章を批評する場合も、大事なことは、批評の仕方の思いやりです。本多氏の批評にあるような「ヘドが出そう」「いやみったらしい」のような言葉を中学生どうしが互いの作文の批評に使うとしたら、その作文の授業はかなり寒々としたものになると思います。

 第八章は、「リズムと文体」についてです。自分の好きな文章の例は、だれでも自分の好みでいくらでも出てきます。しかし、このような好みの文章の羅列が、中学生の作文力の向上につながるとは思えません。
 本多氏は最後に、文章改良の例を書いています。ここが、本多氏のこれまでの作文技術の集大成と言えるところでしょう。しかし、その改良のもとになる文章は、「芝生をいためる球技等の行為は厳禁する」という短い標語でした。(笑)

「中学生からの作文技術(本多勝一)」批判(1)


 対話と個別指導のあるオンライン少人数クラスの作文教室
小1から作文力を上達させれば、これからの入試は有利になる。
志望校別の対応ができる受験作文。作文の専科教育で40年の実績。

同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
他の教室との違い(22) 作文教育(134) 

コメント欄

コメントフォーム
「中学生からの作文技術(本多勝一)」批判(2) 森川林 20051207 に対するコメント

▼コメントはどなたでも自由にお書きください。
なにぬね (スパム投稿を防ぐために五十音表の「なにぬね」の続く1文字を入れてください。)
 ハンドルネーム又はコード:

 (za=森友メール用コード
 フォームに直接書くよりも、別に書いたものをコピーする方が便利です。
同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
他の教室との違い(22) 作文教育(134) 
コメント1~10件
森リンベストの 森川林
じすけ君、ありがとう。 統合失調症のような、また似たような 4/21
森リンベストの じすけ
こわばんは 今日は元気一杯、体験発表をさせて頂きます。 4/20
国語読解問題の 森川林
 あるとき、高3の元生徒から、「国語の成績が悪いのでどうした 3/28
今日は読書3冊 森川林
苫米地さんの「日本転生」は必読書。 3/25
共感力とは何か 森川林
言葉の森のライバルというのはない。 森林プロジェクトで 3/23
3月保護者懇談 森川林
 いろいろ盛りだくさんの内容ですが、いちばんのポイントは、中 3/22
中学生、高校生 森川林
 意見文の書き方で、もうひとつあった。  それは、複数の意 3/14
【合格速報】栃 森川林
 おめでとう!  受験勉強中も、硬い説明文の本をばりばり読 3/13
受験作文と入試 森川林
将来の作文入試は、デジタル入力になり、AIで自動採点するよう 3/13
大学入試が終わ 森川林
大学生になっていちばん大事なことは学問に志すこと。 18歳 3/12
……次のコメント

掲示板の記事1~10件
毎日新聞に言葉 森川林
 しばらく前に、毎日新聞の人が取材に来ました。  そのとき 4/24
テスト送信 森川林
https://www.mori7.com/za2024d0 4/24
4月保護者懇談 森川林
シラン ●今後の「森からゆうびん」の学習デ 4/22
マスクにしても 森川林
マスクにしても、ワクチンにしても、消毒にしても、 自分たち 4/21
イエスも釈迦も 森川林
イエスも釈迦も、理想の社会を築きたいと思っていた。 しかし 4/21
日本復活の道筋 森川林
 工業製品を経済発展の原動力をした資本主義は終わりつつある。 4/17
メモ 森川林
https://www.mori7.com/za2024a0 4/16
単なる作業 森川林
勝海舟は、辞書を買うお金がなかったので、ある人から夜中だけ辞 4/8
勉強は、人に教 森川林
勉強は、人に教えてもらうのではなく、 自分で学べばよい。 4/7
タイマー勉強法 森川林
 勉強も、家事も、仕事も、やらなければならない細かいことがた 4/2

RSS
RSSフィード

QRコード


小・中・高生の作文
小・中・高生の作文

主な記事リンク
主な記事リンク

通学できる作文教室
森林プロジェクトの
作文教室


リンク集
できた君の算数クラブ
代表プロフィール
Zoomサインイン






小学生、中学生、高校生の作文
小学1年生の作文(9) 小学2年生の作文(38) 小学3年生の作文(22) 小学4年生の作文(55)
小学5年生の作文(100) 小学6年生の作文(281) 中学1年生の作文(174) 中学2年生の作文(100)
中学3年生の作文(71) 高校1年生の作文(68) 高校2年生の作文(30) 高校3年生の作文(8)
手書きの作文と講評はここには掲載していません。続きは「作文の丘から」をごらんください。

主な記事リンク
 言葉の森がこれまでに掲載した主な記事のリンクです。
●小1から始める作文と読書
●本当の国語力は作文でつく
●志望校別の受験作文対策

●作文講師の資格を取るには
●国語の勉強法
●父母の声(1)

●学年別作文読書感想文の書き方
●受験作文コース(言葉の森新聞の記事より)
●国語の勉強法(言葉の森新聞の記事より)

●中学受験作文の解説集
●高校受験作文の解説集
●大学受験作文の解説集

●小1からの作文で親子の対話
●絵で見る言葉の森の勉強
●小学1年生の作文

●読書感想文の書き方
●作文教室 比較のための10の基準
●国語力読解力をつける作文の勉強法

●小1から始める楽しい作文――成績をよくするよりも頭をよくすることが勉強の基本
●中学受験国語対策
●父母の声(2)

●最も大事な子供時代の教育――どこに費用と時間をかけるか
●入試の作文・小論文対策
●父母の声(3)

●公立中高一貫校の作文合格対策
●電話通信だから密度濃い作文指導
●作文通信講座の比較―通学教室より続けやすい言葉の森の作文通信

●子や孫に教えられる作文講師資格
●作文教室、比較のための7つの基準
●国語力は低学年の勉強法で決まる

●言葉の森の作文で全教科の学力も
●帰国子女の日本語学習は作文から
●いろいろな質問に答えて

●大切なのは国語力 小学1年生からスタートできる作文と国語の通信教育
●作文教室言葉の森の批評記事を読んで
●父母の声

●言葉の森のオンライン教育関連記事
●作文の通信教育の教材比較 その1
●作文の勉強は毎週やることで力がつく

●国語力をつけるなら読解と作文の学習で
●中高一貫校の作文試験に対応
●作文の通信教育の教材比較 その2

●200字作文の受験作文対策
●受験作文コースの保護者アンケート
●森リンで10人中9人が作文力アップ

●コロナ休校対応 午前中クラス
●国語読解クラスの無料体験学習