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日本人の対話と欧米人のディベートとの違い as/1226.html
森川林 2011/04/05 15:01 
修 削


 ディベートというのは、議論、論議、討論、論争などという言葉で訳されることが多いようです。この言葉に見られるように、討ったり、争ったり、論(あげつら)ったりするのがディベートです。ディスカッションも、同じです。議論の勝ち負けの要素の強いものがディベート、弱いものがディスカッションと考えてもよいでしょう。どちらも、意見を闘わせることが中心です。

 意見を闘わせるためには、自分の意見が正しいという確信が必要です。そして、相手の間違った意見を互いに論破しようとしてできないとき、そこに妥協が生まれます。この妥協のレベルの高いものが弁証法ですが、ほとんどの場合、意見の違いは力の差で決着をつけられます。その決着のひとつの方法が多数決です。

 ところが、日本には、こういう議論や多数決の伝統というものはあまりありませんでした。日本の仏教の中には他宗を批判することを特徴とする宗派もありましたが、多くの日本人は論争とは無縁の生活を送っていました。これは、今でもあまり変わりません。

 本居宣長は、インドや中国になぜ優れた哲学や宗教の理論があり、日本にそのようなものがないのかと問い、その答えとして、インドや中国は民衆のレベルが低かったために、そういう理論が必要だったのだと答えています。つまり、日本人はひとりひとりの人間性のレベルが高かったので、そのような大げさな理論は必要なかったというのです。これは、かなり都合のよい解釈のようにも見えますが、当たっていないこともありません。東日本大震災で被災者どうしが自然に助け合うような文化を持つ国では、もともと法律や罰則や警察などは必要なかったのです。



 では、日本には、議論に該当するようなものはなかったのでしょうか。宮本常一は、「忘れられた日本人」(岩波文庫)の中で、昭和25年ごろに調査した対馬のある村の話し合いのことを書いています。そこで、著者は、ある資料を見てそれを一時借りられないだろうかと村の責任者に相談します。すると、村の人が三々五々と集まり、何時間も話をし、その日のうちに結論が出ないと再び翌日も集まり何日も話をします。その話は、最初のテーマから脱線したりもとに戻ったり、賛成になったり反対になったりしながら延々と続き、やがてみんなが自然に全員一致になるような雰囲気でひとつの結論が出たというのです。この、納得するまで話し合いをして、自然に全員が一致するという話の仕方が、日本に伝統的にある議論の方法です。これは、議論というよりも対話の方法と言った方がよいでしょう。



 では、その対話の本質は何でしょうか。西洋の議論が、自分の側にある正しさを主張することだったの対して、日本の対話は、相手の話をとりあえず全部肯定するところから始まります。そして、相手を肯定したうえで、そこに自分の似た話を付け加えていくのです。いろいろな人が次々と、相手の話を肯定し、自分の話を付け加えていく中で、次第に同じような話が濃く重なる部分が出てきます。その濃い部分がみんなで共有されるようになると、そこに全員一致の意見が生まれるというわけです。

 西洋の、違うものを削っていってあとに残ったものを正しい意見とする方法と、同じようなものを付け加えていって濃くなったものを正しい意見とする方法と、結論は似ているかもしれませんが、途中の過程は正反対です。



 さて、家庭での対話というものを考えた場合も、西洋的な議論と日本的な対話の両方が可能です。子供が長文を音読して自分の感想を述べたとき、親が、「それは、なぜか」と質問したり、「その意見は、違うと思う」と反論したりするのは、西洋の議論です。日本の対話は、子供の言った言葉をそのまま肯定して、そこに親なりの似た話を付け加えていきます。そして、互いの似た話を共有することによって自然に双方が豊かな考えになっていきます。

 人類がゾウやイルカに比べて頭がよいように見えるのは、相手を批判する思考力を身につけてきたためです。しかし、本当に必要な思考力は、相手を肯定するところから生まれてきます。否定を重ねるところから生まれる創造力ではなく、肯定と重ねるところから生まれる創造力がこれからの時代には必要になってくるのです。



コメント欄

匿名 2016年4月1日 12時30分  ▽
ディベートに欠点はあるし対話はメリットばかりに聞こえるけど、むしろ同調圧力で肯定して間違った意見を発展させるような性質もあるんじゃないか。

それは私達の国民性の問題点として取り上げられるし社会問題も生んでいる。例えば労働問題

結局ディベートの勝敗、対話の肯定、どっちに偏っても良くないんじゃないだろうか

森川林 2016年4月1日 20時46分  ▽
 ディベートは、頭の訓練のようなもので、新しいものを生み出すのには向いていないと思います。
 ああ言えばこう言うという練習をいくらしても、創造には結びつかないと思っています。

RIO 2024年7月11日 23時31分  ▽
ディベートは方法論なので、それを学ぶ価値はあります。確かに、日本人には欠けています。
最近は、ここで紹介された昔の方法論もなくなり、一方で、西洋的な議論もできない、という状態だと思います。

ディベートを学ぶことで、自分は知らないということを知るはずなんですが。

森川林 2024年7月13日 7時12分  ▽
 ディベートは、役に立つと思います。
 ただ、相手への共感に基づいたディベートをすることが大事です。

よろしく 2024年8月5日 8時30分  ▽
日本人は上に都合がよい対話と言う名のいいくるめ、現状維持、それぞれと言うものであり、江戸時代から変わらない。意義、主張を持たない、一所懸命に生きる、島国根性です。欧米に比べて、閉鎖的であると思います。

森川林 2024年8月6日 13時54分  ▽
ヨーロッパの対話は、正反合という弁証法の考え方を前提にしています。
日本の対話は、AとBの異なる意見が互いに共感し合ってCを生み出すという対話です。
似ているけど違うのは、否定を動機としないところです。

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