「栴檀(せんだん)は双葉より芳(かんば)し」という言葉があります。小学校1年生で学校に上がるとき、子供の能力には既に大きな差ができています。しかし、その差は先天的なものではなく、主に幼児期の教育によるものです。教育というとオーバーなので、幼児期の環境によるものと言ってもよいでしょう。
もちろん、人間の成長は幼児期に決定されるものではありません。人間は動物と違い、成長してからも自分の能力を変容させる柔軟な可塑性を持っています。しかし、それでも、幼児期における土台の形成は、人間のその後の成長に大きな影響を及ぼします。
幼児期の教育が重要だというのは、このような理由からです。
さて、幼児教育について考える前に、教育というものの社会における役割について考えてみます。
人間は、社会的に生きています。幸福な人生を送るためには、社会が個人の幸福を支えるものになっていなければなりません。
ところで、現代の社会では、社会の最も主要な枠組みは、国際社会でも地域社会でもなく国家社会です。日本に生きている個人は、日本の国家全体が幸福になるのに比例して幸福になっていきます。
日本の国家をよくするために最も重要な役割を担っているものは政治です。政治がビジョンと実行力を持てば、日本はたちまちよい国になります。しかし、今の政治は、ほぼだれもが認めるように、また国際社会でも認められているように、ビジョンにも実行力にも欠けています。
こういう政治を許しているのは、私たちの世論です。その世論を形成する中核となっているものは、マスコミです。つまり、日本のテレビと新聞が、日本人の民度を低くしているのです。その方法は、ひとことで言えば、肝心でないことには正しい報道をするが、肝心なことについては報道をしないというものです。だから、日本人の大多数が知的でありながら、その知性に匹敵しない政治が存続しているのです。
では、なぜこのようなことが行われてきたかというと、それはマスコミのトップが腐敗させられているからです。日本のマスコミは、多数の良心的なジャーナリストにもかかわらず、肝心なことについては真実を報道しないという体制で運営されています。
しかし、現代は、マスコミを超えた情報ネットワークが次々と生まれている時代です。これからの社会に必要なのは、多様な情報を取捨選択する能力と意志を持った個人が増えていくことです。
そのためのひとつの役割を担うものが教育です。これが、教育の社会における役割です。教育は、個人にとっても価値あるものですが、それと同時に社会にとっても価値あるものなのです。
バランスのとれた教育がバランスのとれた世論を生み出し、その世論がビジョンと実行力のある政治を生み出し、その政治が豊かな社会を生み出し、その社会の上に個人の豊かな可能性が開花するというのが未来の日本の姿です。
====3/5に追加した分====
話は脱線しますが、では、マスコミが真に国民の利益を考えたマスコミになるためにはどうしたらよいのでしょうか。それは、ある意味で簡単です。腐敗しているのは、トップ層だけのはずですから、マスコミのトップを、暴力にも賄賂にも屈しない、志のある人間に交代させればよいのです。
マスコミは、既に、立法、行政、司法の三権分立に追加される新しい権力の頂点を形成しています。たとえ私企業ではあっても、国民的な規制を必要とする影響力を持っています。したがって、マスコミに関しては、トップがその企業の全社員の選挙によって選ばれるというようにすることです。そのことを、議員立法として国会で提案し、法律として明文化するのです。そういう国民の利益を考えた立法を行うのが国会の役割です。国会は、単に政党どうしの駆け引きや取り引きや揚げ足取りをする場ではありません。国民の前で、正々堂々と正しい政策を議論する場です。
====追加ここまで。====
さて、教育は、大きく三つに分けられます。
第一は、学校教育です。第二は、社会教育です。第三は、家庭教育です。
学校教育は、教育の最も目につきやすい部分です。したがって、教育予算のほとんどはこの学校教育に投下されています。しかし、今、学校教育は大きな曲がり角に来ています。その理由のひとつは、これまでの教育の前提であった工業化社会が過去のものになるにつれて、欧米から輸入された一斉教育の限界が明らかになってきたためです。もうひとつの理由は、受験教育が、中国のかつての科挙のような末期症状を示すようになってきたためです。
社会教育は、目立たないところで重要な役割を果たしています。社会教育とは、別のことばで言えば、教育に対する文化的影響力です。
子供たちの教育は、その社会が何を価値あるものかと考えているかによって大きく左右されます。ドイツが科学技術の先進国であったのは、ドイツの社会に学問や学者を尊重する文化があったためです。日本にもかつて学問を尊重する文化がありました。しかし、今の日本は、科学技術や学問よりもスポーツや音楽や芸術を高く評価する文化になりつつあります。
イチロー選手が活躍するのは悪いことではありません。歌と踊りのうまいタレントが人気者になるのも悪いことではありません。しかし、子供たちが自分の将来の理想の人間像をスポーツ選手やタレントに見るという社会は、やがて衰退します。スポーツや音楽や芸術は、あくまでも枝葉であり、幹となるものは、科学や技術や学問です。言い換えれば、社会の理想が、消費する文化ではなく、創造する文化であることによって、社会は発展することができるのです。
家庭教育は、学校教育や社会教育と重なって存在しています。子供たちの年齢が上がるにつれて、家庭教育の役割は縮小していきます。しかし、子供が誕生してから保育園や幼稚園や小学校に行くまでの期間は、家庭教育の独壇場です。
小学校時代が、家庭教育40%学校教育60%ぐらいの割合で進むとすると、0歳から3歳までは、家庭教育がほぼ100%の時代です。しかし、問題は、この時期が家庭教育という自覚と方法のないままに過ごされてしまうことです。
そこで、幼児教育の理論と方法が必要になってくるのです。(つづく)
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■大学生の勉強の仕方
大学入試は、決して勉強のゴールではありません。昔のような学歴社会では、大学に入ることがそのまま将来の職業に結びついていましたが、今はそういうことはありません。
小学校から大学までずっと学校の中での生活が続くと、学校でよい成績を取り、偏差値の高い学校に入ることが目標のように考えてしまいがちですが、人生の本当の目的は学校に入ることではなく、仕事をすることです。大学は、今後の仕事の準備をする場です。
こう考えると、大学で真面目に授業に出て、よい成績を取るだけでは不十分です。日本の場合、大学での勉強は高校での勉強よりも易しいことが多いので、単位を取って卒業するだけなら簡単にできます。大学生は、この余裕のある学生生活を生かして、自分の幅を広げる勉強をしていきましょう。
そのために役立つのが、自分がリーダーシップをとるような経験をすることです。「若いうちの苦労は買ってでもせよ」という言葉があります。大学生のころは、いろいろなことにチャレンジして、自分の可能性の幅を広げておくことが大切です。
大学3年生になると就職活動が始まりますが、就職のときにいちばんのポイントになるのが、この学生時代のチャレンジの内容です。単に勉強をしていただけとか、アルバイトを熱心にしたとか、サークル活動をがんばったというだけでは、アピールするものがありません。ただし、勉強でも、アルバイトでも、サークル活動でも、その内容に困難なものに挑戦し何らかの成果を上げたという要素があれば高く評価されます。就職活動で評価されるために大学生活を送るわけではありませんが、せっかくの4年間を無為に過ごさないように、常に自己の向上ということを考えて大学生活を送っていきましょう。
大学時代は、できるだけ古典を読みましょう。大学の授業で指定された教科書を勉強しても、将来あまり役に立ちません。大学を卒業すれば、大学の授業で勉強したようなことはほとんどは忘れてしまいます。卒業したあとも残るものは、古典の読書です。古典というのは、岩波文庫に収録されているような歴史的に評価の定まった本です。自分の専門の分野に限らず、幅広く古典を読んでおくと、それが社会に出てからも役立つ教養になります。
読書会は、参加するメンバーの中のレベルの低い人に合わせた集まりになりがちです。読書は、ひとりで読んでいく方が身につきます。大学生は、自由な時間がかなりあります。特に何もすることがないときはとりあえず読書をすると決めておけば、時間を無駄にすることがありません。そのためにも、いつでもどこに行くときでも読みかけの本を1冊は持っていくようにしましょう。
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■言葉の森では、どういう勉強をするか
・高校生の作文の字数は、600-1200字です。
・1200字の作文(小論文)を60分で書くスピードを目標にしていきましょう。
・感想文課題のもとになる文章は、大学入試の現代文や小論文の課題と同じ難しさです。解説を見る前に、自分なりに書く方向を考えてみましょう。
・構成の仕方は、原因や対策を考えるかたちが中心になります。原因や対策の考え方には、その人なりのパターンができてくるので、自分の得意な発想法を見つけていくようにしましょう。
・パソコンで書ける人はできるだけパソコンで書き、自動採点ソフト森リンの点数を上げることを目標にしていきましょう。
■高校生の勉強の仕方
高校生は、学校の勉強で理系か文系かの選択があります。
現代の受験体制のもとでは、自分の持っている実力を生かして合格しやすい大学に入ることが目標になりがちです。そのため、数学が苦手な人は文系を選択する傾向がありますが、数学は、時間はかかるものの、勉強の仕方さえ正しければだれでも成績を上げることのできる教科です。
理系と文系の将来性を比べた場合、理系の方が広い可能性を持っています。数学が得意であれば、文系の大学に数学を生かして入ることもできます。文系を選ぶとそこから理系に移ることはかなり難しくなります。受験という短期間のことだけでなく、自分の将来の実力を幅広くつけていくためにも理系を選択するとよいと思います。
文系を選んだ人は、高校時代の間に数学から更に縁遠くなってしまうと思います。数学はやればだれでもできるようになるものです。苦手だという意識を持たないようにするためには、大学生になってから、中学生の数学の勉強を教える機会を持つといいと思います。人間は、15歳のころにわからなかったことが、18歳になると驚くほどわかるようになります。言葉の森の生徒で、中学、高校と数学があまり得意ではなく文系に進んだ人が、大学生のときにアルバイトで中学生に数学を教えている間に数学が好きになり、そのまま数学の先生になってしまったということがありました。数学は理屈の世界の勉強なので、わかり始めると面白くなるのです。
高校生になると、読書をする人としない人が更にはっきり分かれてしまいます。読書は、社会人になってからも勉強の最も重要な手段になります。高校生のときにある程度難しい本を読む力をつけていないと、社会人になってから説明文の本を読めなくなってしまいます。高校生のときに難しい説明文の本を読むと、国語の成績も当然上がってきます。読書を、毎日の生活の中に必ず取り入れるようにしていきましょう。
高校2年生の終わりの春休みには、受験勉強の準備を始めましょう。準備の仕方は、大学入試の勉強の仕方の本を読むこと、志望校を決めること、志望校の過去問を答えを書き込みながら解いてみること、志望校に合格するための参考書や問題集を選ぶこと、1年間の勉強の計画を立てることなどです。計画は最初はおおまかなものでかまいません。やっていくうちに軌道修正していきます。
これらの準備の中で、いちばん大事なのは、大学入試の勉強の仕方の本を読むことです。大学入試は、ほとんどの人にとって初めて経験する本格的な入試です。それまで入試の経験もある人でも、中学入試や高校入試の場合は、ある程度他人任せでやってこられました。塾の先生や学校の先生が指示してくれた路線で、本人は指示のとおりに勉強するだけですからある意味で気楽な受験でした。大学入試は、自分で計画を立てて、自分の判断で勉強をしていかなければなりません。
予備校などではその勉強計画を肩代わりしてくれるメニューを持っていますが、そういう他人が用意してくれたメニューで勉強すると、無駄な勉強が多くなります。自分の考えで勉強の計画を立てると、最初は能率が悪いように見えますが、試行錯誤の中で次第に自分に合った勉強の仕方をしていけるようになります。また、そのようにして自分の力で取り組んだ経験は、将来の大きな財産になります。自分の力で取り組むために、受験勉強の仕方に関する本を何冊か読んで知識を増やしていく必要があるのです。
自分で計画を立てて勉強していく場合、いちばんの頼りになるのが志望校の過去問と模擬試験です。勉強を進めていると本筋からはずれたところに時間をとられてしまうことが出てきます。ときどき過去問に戻って、自分の勉強の仕方の軌道修正をし、模擬試験で自分の位置を確認しながら勉強を進めていきます。ところで、模擬試験はあくまでも模擬試験です。模擬試験で出る合格可能性よりもあてになるのが、過去問がどのくらいの割合でできているかということです。過去問は、その年に出ている本の場合、過去7年間分ぐらいの問題しか載っていません。余裕があれば、中古のものも買っておくとよいでしょう。大学入試は、過去問を軸にして勉強していきます。そのためには、高2の春休みの段階で、解ける問題がまだほとんどない状態でも、全教科の答えを書き込みながら1年間分解いてみて、今後の勉強の方向をつかんでおくことが大切です。
大学入試で小論文がある場合の書き方は、普段言葉の森で勉強している書き方と同じです。パソコンで書いている人は、試験の3ヶ月ぐらい前から手書きに戻して、手書きで書く感覚に慣れておきましょう。志望校の過去の問題に合わせた形で10編ぐらいの作文を書いておけば、そこで使った実例、表現、意見などを生かして入試の作文に対応することができます。
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