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読書、作文、暗唱―21世紀に生かす寺子屋教育(その1) as/640.html
森川林 2009/09/22 17:01 
修 削


■世界の歴史の大きな流れ

 まず、世界の歴史の大きな流れをとらえ、次に日本の教育の大きな流れを把握し、最後に、具体的な学習の方法について述べていきたいと思います。

 世界のここ数百年の歴史を産業の歴史という点から見ると、大きく三つのステージに分けられます。一つは中世の身分制社会です。もう一つは近代の工業化社会です。そして、最後は、今やって来つつある知識産業社会です。

 アメリカは、一足先に工業社会を脱して、知識産業を社会に突入しました。しかし、アメリカの知識産業社会は、国内での所得格差の進展と並行して成り立ったために、特殊な発展の仕方をしました。

 パワーエリートと呼ばれる少数の高学歴・高所得のグループは、知識産業社会の中で、新しい大衆サービス産業、IT産業、金融産業を発展させました。一方、社会の大部分を形成する大衆は、スポーツ界や芸能界でアメリカンドリームを目指す一方、ほとんどの人は、絶えず低賃金化する傾向にあるサービス業の労働者として働くという道を選ばざるを得ませんでした。

 そのため、アメリカでは、製造業の新しい産業は宇宙や軍事以外はあまり発展せず、ある歪みを持った金融産業が社会の主要な地位を占めるようになったのです。

 現在、工業社会を担っているのは、日本をはじめとする西ヨーロッパの諸国です。しかし、日本が、格差の少ない知的な大衆によって形成される平等社会であるのに対して、ヨーロッパは少数のエリートと多数の大衆によって形成される階級社会です。従って、ヨーロッパの社会が工業社会を脱して行き着く先は、アメリカと同じような形態にならざるをえません。老いたヨーロッパには、もはや新しい知識産業社会を創造する活力はないのです。

 また、近代工業社会に新たに参入しようとしている中国を初めとするBRICs諸国も、少数のエリートと多くの大衆によって形成される格差の大きい社会です。そのため、これらの国の工業立国の形態は、低賃金を生かした海外輸出か、国内の耐久消費財をもとにした内需拡大かという道になっています。日本のように均質で良質な労働力に支えられた高度な工業国に発展するのは難しいのです。

 アメリカ型の金融産業社会に、未来の世界を支えるビジョンは感じられません。一方、そのあとに続くヨーロッパやBRICs諸国の工業社会にも未来の展望は感じられません。日本がこれから進もうとしている未来の社会は、国民の大部分を占める知的な大衆によって支えられた新しい知識産業の社会です。それは、大衆的なレベルでの多様な文化的需要によって、新しい価値ある産業が生まれるような文化産業社会です。

■日本の教育の大きな流れ

 寺子屋教育に代表されるような日本の中世の身分制社会における教育は、その身分に適応した生活教育と、人生論の一般的な教育が中心でした。従って、教育の到達目標というものはなく、実際の生活に役立つ範囲で成果があるというような学習であり、勉強の基本的なスタイルは、自主的な楽しい雰囲気の学習でした。

 これに対して、明治時代から始まった、近代工業社会に対応するための教育は、規格にあった人間を大量に作り出すための教育であり、到達すべき目標がはっきりと決まっている教育でした。

 この目標としての規格を達成するための方法として、テストと競争が重視されました。この発想は、もちろん今でも続いています。ところが、日本人の研究熱心さと大衆的な進学志向により、競争のノウハウが次々に高度化されていき、それに伴ってテストも高度に瑣末化するという循環が生まれました。このために現在、教育は、かけた金額やかけた時間に比例して成果が上がるようなものになっているのです。

 競争の高度化とテストの瑣末化の結果、勉強の方法が細分化され、スモールステップ教育が、教育方法の主流となりました。このスモールステップ教育は、資本主義の論理と結びつき、ステップが細かいがゆえにGDPを押し上げるという効果をもたらしました。その結果、高付加価値化、複雑化、専門化、高額化、細分化というようなスタイルの教育が広がっていったのです。

 ところが現在では、苦労して高学歴を手に入れても、昭和初期までのようなエスカレーターが社会に用意されているわけではありません。ほとんどの人は、社会でもさらに過酷な競争に参加せざるをえません。一方、自由な職業と思われている医師や弁護士や教師においても、年々競争が厳しくなり、またそれらの仕事が本来持つはずの喜びも、確かなものではなくなっています。

 しかし、だからといって、日本の社会は、学歴や定職のない人が個性だけで一旗あげることができるような社会ではありません。アメリカの社会でアメリカンドリームが可能なのは、同じ境遇の人が大きな層を形成しているからです。日本人の大多数は、学歴や定職に基づく社会に属しているので、そこから離れたジャパンドリームというものが生まれる余地はほとんどありません。

 しかし、ここに実は日本の未来の可能性があるのです。今後考えられることは、日本人の高い学力を土台にした、知的な大衆による新しい多様な文化が生まれるということです。

 かつて日本には、剣道、華道、茶道などの世界に類を見ないユニークで洗練された文化がありました。このような新しい文化がこれから日本の社会に生まれてくるということです。そのために、これからの勉強は、高い学力と豊かな創造性を両立させるようなものになることが求められているのです。



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