漢字の勉強については、読みと書きは別のものだと考えておく必要があります。読みは、主に読書量に比例しています。書きは、勉強量に比例しています。漢字の書き取りができていないのは、単に書き取りの勉強をしていないからというだけです。
漢字についての大きな問題は、知らないとか書けないとかいうことよりも、勘違いして覚えているので、何を勘違いしているのかわからないというところにあります。
漢字の書き取りができない原因は何かというと、勉強不足だと書きました。しかし、学校で真面目に勉強しているだけでは不十分です。学校では、集団指導なので、個人差のある生徒を一斉に教えます。すると、書き取りのような時間を取る勉強は、練習量をカバーすることができなくなります。これは、やむをえないことだと思います。
学校は、テストをして評価することが中心になるので、先生は、「漢字の勉強は家庭でするものだ」と思っています。一方、家庭では、勉強の中身は学校に任せているので、親は、「漢字は学校で習うものだ」と思っています。その結果、子供は、漢字の勉強をしなくてもすむようになるのです
漢字の書き取りは、家庭でやるものだと決めておくことが大切です。これは、計算練習でも同じです。漢字の書き取りと、計算練習と、読書の三つは、家庭でするものだと考えておくことです。
では、漢字はどう勉強したらいいのでしょうか。
まず、市販の問題集で漢字の書き取りのテストをします。そして、できなかった漢字をピックアップします。中学生や高校生の場合でも、小学3年生あたりの漢字からやり直す必要があります。実は、高校生の小論文の誤字で最も多いのが、小学校中高学年のころに習った漢字なのです。難しい漢字はしっかり書けるのに、小学校の中高学年で習った易しい漢字を間違えて覚えている人がかなりいます。
次に、できなかった漢字を覚える練習です。これも、市販の問題集を利用して、(1)教科書体の字の形をよく見ながら、(2)書き順に注意して、(3)ノートに繰り返し書く、という練習をします。
1ページ120マスの漢字練習帳や作文練習帳があります。文字の形を覚えるためには、このようにある程度大きいマスのノートの方がいいと思います。このノートに、間違えた漢字を繰り返し書いていきます。1日の勉強時間は5分から10分です。漢字の覚え方には、いろいろな方法がありますが、基本は反復練習です。
江戸時代の寺子屋では、漢字の書き取りをどのように練習していたのでしょうか。先生が書いた手本を、筆で何回もなぞり、紙が真っ黒になるまで練習をしました。このやり方で、上手な字の書き方と書き順を同時に覚えました。この方法は、頭で覚える方法ではなく手で覚える方法ですから、江戸時代の人たちは、漢字をスポーツや音楽のようなものとして習得していったのです。
ところで、書き取りの基礎には読み取りがあります。読んだことのない文字を書くのは、象形文字の練習をするようなものです。本をたくさん読んで、日常生活で漢字に接している子は、書き取りの練習をするときも覚えるのが早くなります。ですから、家庭では、漢字の練習をするとともに、読書の練習も並行して進めていく必要があります。
とてもいいコメントです。私はタイ人ですが 今でも日本語を勉強し続けております。私として漢字は文法の勉強より難しい勉強ですので 少なくとも一日中に日本語の文書や雑誌などをある程度 読んでわからない漢字を見つけたらそれを持ち、辞書を引いてその文字を毎日覚えております。それでは またコメントさせて頂きます。宜しくお願いいたします。
言葉の森では、暗唱用紙を使った暗唱の練習をしています。これは、タイマーなどで時間を測って行う暗唱に比べて、かなりやりやすいものです。「正」の字を書いて回数を数えるのは、鉛筆を持っていないとできません。指を折って数えるのでは、あまりたくさんの回数は数えられません。紙を折って数える暗唱であれば、新聞のチラシなどを使ってすぐにできます。また片手でできるので、歩きながらでも、お風呂に入りながらでもできます。
いろは47文字というものがあります。「いろはにほへとちりぬるをわかよたれそつねならむうゐのおくやまけふこえてあさきゆめみしゑひもせす」です。最後に便宜上「ん」をつけると全部で48文字です。小学生のときに覚えさせられた経験があります。しかし、学校でやる時間はとれないでしょうから、宿題として覚えさせられたのではないかと思います。
この「いろは」に似たものに、「ひふみ」というものがあります。「ひふみよいむなやこともちろらねしきるゆゐつわぬそをたはくめかうおゑにさりへてのますあせえほれけ」です。途中の「ひふみよいむなやこと」までは「一二三四五六七八九十」のことですから意味がわかりますが、その後は意味がわかりません。(「も」は百、「ち」は千だそうですが)
この「ひふみ」にヒントを得て、ランダムな48文字を作ってみました。読みやすいように七五調にしています。「りしにたやこけ さきふをは るみとへなくめ ゆゐてひか それもつのまね うよゑすわ いおんむほらえ あろちせぬ」。全く意味不明です(笑)。
江戸時代に行われた四書五経の素読は、子供にとっては同じようにほとんど意味のわからないものでした。湯川秀樹の兄弟たちも、六歳のころ素読をかなり苦痛に感じていたようです。福沢諭吉も、素読のような意味不明の苦痛の多い勉強をするよりも、西欧の知識をしっかり学ぶことが大切だというようなことを述べています。しかし、日本が欧米の先進国の知識を短期間に吸収できたのは、江戸時代までの素読という教育基盤があったからです。
今、言葉の森で行っている暗唱は、小学生の場合は同学年の子供の作文が中心ですから、読んでいて意味がすぐにわかります。江戸時代までの素読は、六歳の子供に、「子曰学而時習之不亦説乎(子曰く学びて時にこれを習うまたよろこばしからずや)」などとやっていたわけですから、子供にとっては何が何だかわかりませんでした。それで、多くの子供は、この素読の反復に苦労していたのです。
そこで、意味のわかりにくい文字列がどれぐらい暗唱しにくいのかということで、ランダム48文字の暗唱をしてみました。もちろんツールは、言葉の森の暗唱用紙です。
やってみると、わずか48文字なのに、30回音読してもできません。普通の文章であれば、100字でも15回から30回の反復で暗唱できるようになりますが、無意味な文字列というのはその倍以上も覚えにくいのだということがわかりました。結局60回音読すると、やっと空で言えるようになりました。かかった時間は約10分です。
ところが2日目に、別のランダム48文字でやってみると、今度は45回で暗唱できるようになりました。その文字列は、これです。「みつのふうちか めわろぬそ よてえもおませ らひゐをし ねんたえにむす はいさとき りくこほゆなあ やへけるれ」。
3日目に、別のランダム48文字でやってみると、今度は30回で暗唱できるようになりました。「ちてうだんよめ のりはろま なゐいゆとけえ あぬきらる そさにおすをせ ほゑむみれ かひやひふもつ くわしこね」
自分でもよくやるなあと思いつつ、4日目は、別の48文字です。「よへもくわやね ませいてつ となかひけをふ のろさちお えらこゑたある りみそはん ゐにめしむきほ れゆぬすう」。
そして、5日目に、全部を通して暗唱してみました。約200文字の意味不明の文字列の暗唱です。30回用の暗唱用紙を使って、やはり60回ぐらいでやっと全部を通して暗唱できるようになりました。
と、このような意味不明のことをやっていて(笑)よくわかったのは、暗唱にはコツがあるということです。ひとつは、やはり暗唱用紙を使って紙を折ってやる暗唱は、とてもやりやすいということです。もうひとつは、書いて覚えるよりも音読で覚える方が短時間でできるということです。みっつめに、句読点で区切らずに棒読みで読むほうが覚えやすいということです。
この棒読みで読むというのは、文字列を言葉として理解しながら覚えるのではなく、歌として無意識のうちに覚えてしまうということです。例えば、「私は、昨日、海に行きました。すると……」という文章を読む場合、「わたしはきのううみにいきましたすると……」と、句読点で区切らずに読みます。「わーたーしーはーきーのーうーうーみーにーいーきーまーしーたーすーるーとー……」という読み方でもいいと思いますが、ちょっと時間がかかります。
区切らずに読むと、100字程度の文章であれば、一息で読めますから、慣れてくると、その100字がひとつの単語であるかのようにまとまって頭に入ってくるようになります。中学生以上になると、急に暗唱が難しくなるように感じるのは、意味を理解しながら読むという習慣がついてしまうからだと思います。
学習というものは、意味を理解する面と、理解とは別に手足のように自由に使えるように技能を習得する面との両方があります。水泳などは、意味を理解しても泳げるようにはなりません。まず泳ぐという技能を習得することが先です。運動や音楽と同じように、国語力にも意味を理解する以前に、読む力や書く力を習得するという面があるのです。
しかし、このような暗唱のコツは、実際にやってみないとなかなかわかりません。今、親の世代は、子供のころ何かを暗唱させられたという経験があまりないので、暗唱のコツがよくわかりません。そこで、つい、暗唱することを覚えることと勘違いしてしまいます。暗唱は、覚えることではなく、ただ反復することです。
今実際に暗唱をしている子供たちは、このあたりのコツがわかっていると思うので、将来、この子たちが大きくなって親になったら、その子供にうまく暗唱の仕方を教えることができるようになると思います。
では、暗唱にどのような効果があるのでしょうか。第1は、作文力がつくことです。暗唱をしていると、文章がスムーズに書けるようになります。これは、暗唱をしている子供たちの作文の字数が増えていることでわかります。第2は、これは脳波計で調べたことですが、暗唱をしているとΘ波が増えるということです。Θ波が増えると、気持ちが平穏になり、ひらめきが増えるようになります。暗唱をしていと、発想がわきやすくなるという効果があるのは、このためではないかと思います。
暗唱で、記憶力がつくとか、読解力がつくという効果は、あるとしてもそれほど大きくはないと思います。読解力は、難しい文章を繰り返し読むことによって身につくので、今、言葉の森で行っている問題集読書がいちばん効果があります。今度、毎日10ページの付箋読書を行う予定ですが、毎日10ページの読書は、読解力をつけるというよりも、読解力の基礎となる読書力をつけるという役割になると思います。