ゲストさん ログイン ログアウト 登録
 Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
記事 1547番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/5/8
創造性を育てる作文 5(読む創造性) as/1547.html
森川林 2012/05/21 18:02 



 ポール・サミュエルソン(1970年ノーベル経済学賞)の著書は、長らく経済学の教科書として使われていました。その特徴は、経済学と数学を結びつけたところにあります。彼は自分自身でも、二つの異なる専門があったのでオリジナルな学問を作ることができたと述懐しています。つまり、自分が精通している専門分野が複数あり、その組み合わせで独創性を発揮できたというのです。これが、創造というもののひとつの典型的な生まれ方です。

 異なる分野をただ幅広く知っているだけでは不十分で、異なる分野それぞれに精通していることによって、相互の不足が手に取るようにわかるようになります。この不足の発見が創造の原点です。これが、読む創造性(題材の創造性)です。つまり、知識に習熟することによって生まれる創造です。


 ここで、日本と欧米の創造の違いが出てきます。異なる複数の専門分野という場合、西欧では、それは主に知の専門家によって担われていました。つまり、エリートがカバーする専門分野で新しい発見や創造が生まれることが多く、そのために、その創造は規模の大きなもの、斬新なものであることが多かったのです。

 これに対して、日本では、エリートと大衆の差が少なく、エリートも現場の仕事に携わり大衆も知的な素養を持つという文化がありました。欧米と違い、大衆は単なる歯車として仕事を遂行するだけの存在ではなく、自分なりにその仕事に専門家として習熟していました。その結果、日本では大衆のレベルから小さな創造が行われることが多く、それが外からは、日本人は創造よりも模倣が得意だというように見られる要因となったのです。


 種子島にもたらされた鉄砲は、最近の研究によると、その島の刀鍛冶たちによってすぐに模倣され多くの銃が作られたそうです。同時に火薬の製法などもただちに習得され、それが日本中に広まったと言われています。これが単なる模倣でないことは明らかです。鍛冶職人の現場では、小さな創意工夫が次々に行われたはずだからです。このように、大衆のレベルで知の習熟があったことが、日本の近代化というヨーロッパの模倣を可能にしました。しかし、それは実は模倣でではなく、無数の小さな創造の積み重ねだったということです。日本で生産現場におけるカイゼン活動が盛んだったのも、やはり知の習熟が大衆的レベルで行われていた証拠と言ってよいでしょう。


 この知識の習熟が「読む創造性」の基本だとすると、この創造の勉強の要点は、良質な知識に習熟することにあります。ここで大事なのは、「習熟する」ということです。単に、数日後のテストに間に合わせるために仕入れた知識は習熟とは言いません。もちろん、数週間後でも、数か月後でも同じです。ある知識に習熟するということは、渋沢栄一が論語においてそうであったように、日々の生活のすべてにわたり一生その知識を折に触れて思い出し現実にあてはめるような理解の仕方です。

 こういう理解の仕方の土台となるものが暗唱であり、その暗唱の方法が音読です。だから、日本の教育で今後、読む創造性を高めるためには、良質な知識を暗唱することによって自分の血肉とし、それを他の分野の知識にあてはめるような学習をしていく必要があるのです。(つづく)



 ポール・サミュエルソン(1970年ノーベル経済学賞)の著書は、長らく経済学の教科書として使われていました。その特徴は、経済学と数学を結びつけたところにあります。彼は自分自身でも、二つの異なる専門があったのでオリジナルな学問を作ることができたと述懐しています。つまり、自分が精通している専門分野が複数あり、その組み合わせで独創性を発揮できたというのです。これが、創造というもののひとつの典型的な生まれ方です。

 異なる分野をただ幅広く知っているだけでは不十分で、異なる分野それぞれに精通していることによって、相互の不足が手に取るようにわかるようになります。この不足の発見が創造の原点です。これが、読む創造性(題材の創造性)です。つまり、知識に習熟することによって生まれる創造です。


 ここで、日本と欧米の創造の違いが出てきます。異なる複数の専門分野という場合、西欧では、それは主に知の専門家によって担われていました。つまり、エリートがカバーする専門分野で新しい発見や創造が生まれることが多く、そのために、その創造は規模の大きなもの、斬新なものであることが多かったのです。

 これに対して、日本では、エリートと大衆の差が少なく、エリートも現場の仕事に携わり大衆も知的な素養を持つという文化がありました。欧米と違い、大衆は単なる歯車として仕事を遂行するだけの存在ではなく、自分なりにその仕事に専門家として習熟していました。その結果、日本では大衆のレベルから小さな創造が行われることが多く、それが外からは、日本人は創造よりも模倣が得意だというように見られる要因となったのです。


 種子島にもたらされた鉄砲は、最近の研究によると、その島の刀鍛冶たちによってすぐに模倣され多くの銃が作られたそうです。同時に火薬の製法などもただちに習得され、それが日本中に広まったと言われています。これが単なる模倣でないことは明らかです。鍛冶職人の現場では、小さな創意工夫が次々に行われたはずだからです。このように、大衆のレベルで知の習熟があったことが、日本の近代化というヨーロッパの模倣を可能にしました。しかし、それは実は模倣でではなく、無数の小さな創造の積み重ねだったということです。日本で生産現場におけるカイゼン活動が盛んだったのも、やはり知の習熟が大衆的レベルで行われていた証拠と言ってよいでしょう。


 この知識の習熟が「読む創造性」の基本だとすると、この創造の勉強の要点は、良質な知識に習熟することにあります。ここで大事なのは、「習熟する」ということです。単に、数日後のテストに間に合わせるために仕入れた知識は習熟とは言いません。もちろん、数週間後でも、数か月後でも同じです。ある知識に習熟するということは、渋沢栄一が論語においてそうであったように、日々の生活のすべてにわたり一生その知識を折に触れて思い出し現実にあてはめるような理解の仕方です。

 こういう理解の仕方の土台となるものが暗唱であり、その暗唱の方法が音読です。だから、日本の教育で今後、読む創造性を高めるためには、良質な知識を暗唱することによって自分の血肉とし、それを他の分野の知識にあてはめるような学習をしていく必要があるのです。(つづく)


 国語読解力は、あらゆる学力の基礎。問題集読書の復読と、読解検定の自主解説で確実に力がつく
国語読解力は、あらゆる学力の基礎。問題集読書の復読と、読解検定の自主解説で確実に力がつく。

コメント欄

コメントフォーム
創造性を育てる作文 5(読む創造性) 森川林 20120521 に対するコメント

▼コメントはどなたでも自由にお書きください。
えおかき (スパム投稿を防ぐために五十音表の「えおかき」の続く1文字を入れてください。)
 ハンドルネーム又はコード:

 (za=森友メール用コード
 フォームに直接書くよりも、別に書いたものをコピーする方が便利です。
同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
作文教育(134) 
コメント21~30件
……前のコメント
低学年の作文の 森川林
低学年の作文でいちばん大事なことは、題材選びです。 その題 3/3
作文における書 森川林
 作文で大事なのは中身です。  しかし、中身はなかなか進歩 3/2
これからの新し 森川林
 今はまだ、勉強のゴールは、大学入試になっています。  大 3/1
上手な作文とそ 森川林
 上手な作文とそうでない作文の差は、語彙力の差です。  そ 2/29
ChatGPT 森川林
 創造発表の勉強のネックになるのは、個性的なテーマであればあ 2/28
夏期講習でのデ 森川林
 国語の勉強の方法としていちばんいいのは、ディスカッションで 2/25
教育論に欠けて 森川林
 ボタンの掛け違いは、最後になるまでわかりません。  最初 2/18
教育論に欠けて 森川林
 しっかり勉強して、いい学校に入り、成績を上げて、目指す大学 2/18
創造発表クラス 森川林
創造発表の勉強は、知識的にやるのではなく、実験的にやることが 2/5
齋藤孝さんへの 森川林
私は、ブンブンどりむのようなレベルの低いものは誰もやらないだ 2/4
……次のコメント

掲示板の記事1~10件
読解検定4月中 あうせれ
問3のAが×だと思いました。←「小学校低学年らしい男の子」と 5/8
マスクしない、 森川林
マスクしない、ワクチン打たない、消毒しない。 人類は、何十 5/7
まだ夜なのに、 森川林
まだ夜なのに、小鳥が鳴いている。 元気がよくていいや。 5/7
夜の山道を車で 森川林
夜の山道を車で走っていると、なぜか左側が暗い。 降りてみる 5/7
競争から創造へ 森川林
競争で勝つということは、負ける相手がいるということだ。 大 5/6
人はみな、未来 森川林
人は皆、未来に生きている。 親がレールを敷こうとしている未 5/4
Re: 読会検 森川林
 千個というのは、立方体のことなので、例えば、1辺が1ミクロ 5/3
なぜ、作文クラ 森川林
なぜ、作文クラスを作文個別より優先するのか。 それは、言葉 5/3
釈迦は言った。 森川林
釈迦は言った。 ――自灯明(じとうみょう)―― 人間は、 5/3
読会検定4月  あかそよ
問題3 Bが〇だと思いました。なぜなら、五段落目の一番最後 5/1

RSS
RSSフィード

QRコード


小・中・高生の作文
小・中・高生の作文

主な記事リンク
主な記事リンク

通学できる作文教室
森林プロジェクトの
作文教室


リンク集
できた君の算数クラブ
代表プロフィール
Zoomサインイン






小学生、中学生、高校生の作文
小学1年生の作文(9) 小学2年生の作文(38) 小学3年生の作文(22) 小学4年生の作文(55)
小学5年生の作文(100) 小学6年生の作文(281) 中学1年生の作文(174) 中学2年生の作文(100)
中学3年生の作文(71) 高校1年生の作文(68) 高校2年生の作文(30) 高校3年生の作文(8)
手書きの作文と講評はここには掲載していません。続きは「作文の丘から」をごらんください。

主な記事リンク
 言葉の森がこれまでに掲載した主な記事のリンクです。
●小1から始める作文と読書
●本当の国語力は作文でつく
●志望校別の受験作文対策

●作文講師の資格を取るには
●国語の勉強法
●父母の声(1)

●学年別作文読書感想文の書き方
●受験作文コース(言葉の森新聞の記事より)
●国語の勉強法(言葉の森新聞の記事より)

●中学受験作文の解説集
●高校受験作文の解説集
●大学受験作文の解説集

●小1からの作文で親子の対話
●絵で見る言葉の森の勉強
●小学1年生の作文

●読書感想文の書き方
●作文教室 比較のための10の基準
●国語力読解力をつける作文の勉強法

●小1から始める楽しい作文――成績をよくするよりも頭をよくすることが勉強の基本
●中学受験国語対策
●父母の声(2)

●最も大事な子供時代の教育――どこに費用と時間をかけるか
●入試の作文・小論文対策
●父母の声(3)

●公立中高一貫校の作文合格対策
●電話通信だから密度濃い作文指導
●作文通信講座の比較―通学教室より続けやすい言葉の森の作文通信

●子や孫に教えられる作文講師資格
●作文教室、比較のための7つの基準
●国語力は低学年の勉強法で決まる

●言葉の森の作文で全教科の学力も
●帰国子女の日本語学習は作文から
●いろいろな質問に答えて

●大切なのは国語力 小学1年生からスタートできる作文と国語の通信教育
●作文教室言葉の森の批評記事を読んで
●父母の声

●言葉の森のオンライン教育関連記事
●作文の通信教育の教材比較 その1
●作文の勉強は毎週やることで力がつく

●国語力をつけるなら読解と作文の学習で
●中高一貫校の作文試験に対応
●作文の通信教育の教材比較 その2

●200字作文の受験作文対策
●受験作文コースの保護者アンケート
●森リンで10人中9人が作文力アップ

●コロナ休校対応 午前中クラス
●国語読解クラスの無料体験学習