教室に置いてある本で、誰もが熱中するような面白い本があります。「世界ふしぎめぐり2年生」「宇宙人のいる教室」「天使で大地はいっぱいだ」「ほらふきふそつき物語」「二分間の冒険」「ガンバの冒険」「モモ」「はてしない物語」などです。
「世界ふしぎめぐり」は、男の子向けの本なので、女の子は逆に読みたがらないこともあります。「モモ」や「はてしない物語」は、ある程度読書力がないと読み進められないので、小学生のときには、無理に読む必要はないとも思います。誰もが例外なく熱中する、やさしく読めて、面白くて、心の洗われる本のひとつが「宇宙人のいる教室」です。
しかし、こういういい本がすぐに絶版になります。本というアナログ的なものは、売り切れたらもう手に入りません。また、買ったものはいつまでもスペースを占有します。それがよい面ももちろんありますが、読書生活のひとつのネックにもなっているようです。
そこで、今後、図書のデジタル化が重要になってきます。これから、キンドルやiPadなどで本を読む形が次第に一般化していくと思います。
しかし、出版業界の対応は、どうしても遅れがちです。そのため、次のようなことが考えられると思います。
第一は、ブログなどの面白い記事を、PCの画面よりも読みやすい画面で、付箋や傍線などがつけられるような形の読書端末で読めるようにすることです。
今、テレビは見ないがYoutubeは見るとか、新聞は見ないがニュースサイトは見るという世代が増えています。出版についても、本は読まないがウェブの記事は読むという人が増えていると思います。
ウェブの記事を見る場合の、いちばんの問題は、画面では読みにくいということと、傍線などが引けないということです。これらを解決するための技術的な問題はほとんどないと思うので、今後、ウェブを読書がわりに読むということに徹した標準的な端末が出てくると思います。
第二は、自分で買った本を、自分流にデジタル化して読むことです。買った本をばらして、スキャナで読み込み、それを読書端末で読めるようにするということは、既に読書好きの人の間では行われているようです。言葉の森で行っている問題集読書の分冊も、このようにデジタル化して読む人がいるかもしれません。
読書のスタイルは、今後大きく変わってくると思います。
上手に書けているが、作文が盛り上がりに欠けるという子がいました。一人は小学校低学年で、もう一人は小学校高学年で、いずれも男の子です。
二人とも学力はかなり優秀で、同じ学年の子がまず書けないような語彙を自然に使って文章を書くことができます。
しかし、低学年の子は、運動会の話を、「次は……をして……」「次は……をして……」と長く書く作文でした。それぞれの話はそれなりに面白いのですが、読み終えた印象は、次々と出来事を羅列しているような感じです。
こういう作文を読むと、ほとんどの大人はこう言います。「長く書いたのはえらいけど、まとまりがない」。
次は、高学年の子です。「ぼくの友達」というようなテーマで、自分がこれまでに遊んだいろいろな友達の話を書いていました。ひとりひとりの話をおもしろおかしく書いているので、それぞれのエピソードには、表現力もユーモアも感じられますが、全体を読み終えたあとの印象はやはり、事実を並べただけで盛り上がりに欠けるという感じです。
このように、「上手に書けていて」「国語力や他の学力もかなりあるが」「しかし、事実を次々を並べるような書き方で」「盛り上がりに欠ける」という作文を書く子をどう指導したらいいのでしょうか。
実は、こういう子は、このままでいいのです。
小学校のときこそ、書き方が平板だという注意を受けることがあるかもしれませんが、こういう子が中学生や高校生になると、とてもいい意見文を書くようになります。
小学校の生活作文は、小説のような作文がよいという暗黙の前提をもとに評価されています。そのため、作文に、小説のような盛り上がりがあることが重視されるのです。
しかし、これが、記録文や紀行文であれば、評価は自ずから違ってきます。
一般に、男の子の作文は、データ重視の文章になることが多く、名前や数字などの事実をしっかり記録することに喜びを感じて作文を書く傾向があります。これに対して、女の子の作文は、会話やそのときの印象を書くというような体験と実感を重視した作文になる傾向があります。
このため、小学校のころの作文の上手下手は、高校生の小論文になると逆転してくることも多いのです。
とは言っても、小学校の段階で上手に書く方法ももちろんあります。
第一は、小説を読む機会を増やし、小説の面白さを感じる中で、描写力をつけることです。
第二は、自分のしたこと、特に、個性、挑戦、感動、共感の感じられる体験を作文に盛り込むようにすることです。
第三は、両親に似た話を取材して、作文の話題を立体的にすることです。
第四は、伝記実例など、読書の中から得た実例を入れて話題を豊かにしていくことです。
しかし、いちばん大事なのは、小学校の段階で上手に書くことを目的にするのではなく、高校生になったときに上手に書く力をつけることを目的にすることです。だから、欠点を直そうとするよりも、その欠点と見られることの中にその子の可能性が隠れているのではないかという目で見ていく必要があるのです。