記事 954番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2020/6/4
世界共通語となる可能性を持った日本語
森川林 2010/07/07 03:14 


 日本語という言語には、他の言語には見られない特徴があります。

 第一は、外界を人間化してとらえる母音言語という特徴です。日本語では、自然の音を左脳の言語脳で把握します。「雨がザーザー降っている」「セミがミンミン鳴いている」という表現です。音だけでなく、様子についても、「雲がふんわり浮かんでいる」「太陽がぽかぽか照っている」と様態を母音で表します。

 母音を人間世界の音、子音を非人間世界の音とすると、自然の音も含めてすべて母音の含まれる音で表す日本語は、自然そのものを人間的なものとして受け入れる言語だと言えます。日本文化におけるアニミズムは、この言語における自然の人間化と密接な関係を持っています。

 この外界を人間世界と同じようなものとして受け入れる発想から、自然に対する繊細な観察眼が生まれました。日本人は、自然を、人間が征服すべき単なる外界の素材と考えるのではなく、人間に協力してくれる意志を持つ仲間のように考えます。例えば、針供養は、針を道具としてではなく、仕事の協力者として見る発想から生まれました。

 自然や道具に対するこの人間化した見方が、自然や機械と対話する日本文化を生み出しました。日本の工業製品の品質が優れているのは、人間と製品の間に、人間どうしの間に見られるような対話があるからです。その対話の土台となっているものが、日本語の母音性から来るアニミズム的な発想だと思います。


 第ニは、表意文字と表音文字を組み合わせて視覚的な理解を促す漢字かな混じり文という特徴です。日本語における漢字とかなは、脳の異なる部位で処理されています。漢字は、絵と同じようなものとして認識されているので、日本語の文章を読むと、文字が視覚的な映像を伴って処理されます。このため、漢字かな混じり文は、一目で全体を理解しやすいという特徴を持っています。

 アルファベットのような表音文字の場合でも、文章を読む量が増えてくるにつれて、単語という文字の塊を一種の図形のように認識するようになるようです。しかし、図形化の度合いは、もともと表意文字である漢字の方が優れているので、日本語は西欧のアルファベット言語よりも、物事を理解する手段として有利な言語なのです。

 また、漢字が主に名詞として概念を表すのに対して、ひらがなは主に概念と概念をつなぐ媒介としての役割を果たします。中国語が語順によって概念と概念の間にある関係を表すのに対して、日本語は語順ではなく、漢字と漢字の間にひらがなをはさむことによって概念相互の関係を表します。ひらがなが介在することによって、概念を表す漢字の組み合わせ方が自由になるというところに、日本語の発想の豊かさがあります。

 日本語は、表意文字の部分で理解力を高め、表音文字の部分で創造性を高めるという不思議な特徴を持った言語なのです。


 第三は、助詞や助動詞という語尾のニュアンスで微妙な差異を表現する膠着言語という特徴です。英語や中国語と異なり、日本語は、文の最後まで聞かないと、その文を正しく理解できません。例えば、「私は、明日、学校に行く……」まで聞いても、そのあと、「行くでしょう」か、「行くかもしれません」か、「行く気はありません」か、どのように続くか判断できません。

 そのため、日本語は、話し言葉でなかなか句点をつけずに、いつまでも続くような形をとりがちです。「その件については、前向きに善処したいと、このように考えているわけである、と言いたいところですが、やはり、何と申しましても……」というような言い方になると、聞き手は最後まで気を緩めることができません。

 この膠着語における文末の微妙さが、日本文化における微妙な差異に対する関心を生み出しました。そのため、話し言葉では、文末は、しばしばぼかされる形で微妙な雰囲気を相手の受け取り方にゆだねます。「この間は、どうも……」「はい、おかげさまで……」「ちょっと、そこまで……」などという言い方です。

 話し言葉の特徴は、書き言葉にも表れます。書き言葉では、文末をぼかす形がとれないので、言い切らない表現が多様されます。「そうである。」という断定ではなく、「そうであろう。」「そうだと思われる。」「そうだと言える。」「そうだと言いたい。」などという表現です。また、ニュアンスを表すための顔文字や「(汗)」「(笑)」などが多用されるのも、相手の微妙な受け取り方を前提にして文章を書くという日本語の特徴です。

 膠着語は、微妙な差異を生み出せるために、互いに相手の受け取り方に気をつかうという配慮の文化を生み出したと言えます。


 20世紀の世界言語は英語でした。それは、世界共通の言語としてコミュニケーションのツールに役立つ特徴を備えていたからです。

 しかし、今後は人工知能の発達によって、言語は次第に自動翻訳が可能な表現手段になってきます。

 世界に何千もの言語があることを考えると、個人が学習によってそれらの言語に精通することは不可能です。英語が世界の共通語になったのは、言語の習得に時間がかかることから、言わば消去法として選ばれたという事情があります。

 人工知能が世界中の言語の自動翻訳を可能にする時代に、言語に求められる役割は、もはや世界の人々とのコミュニケーションではありません。新しい時代の言語の役割は、コミュニケーションのツールではなく、理解や認識や思考のツールとしての役割です。

 しかし、言語が認識のツールになるためには、その言語が個人の母語になっている必要があります。コミュニケーションのツールであれば、後天的に習得することが可能でした。しかし、ある言語が認識のツールとなるためには、その言語が母語として血肉化されている必要があります。また、バイリンガルの教育法が開発され整備されれば、母語は複数であることも可能です。

 こう考えると、日本語は、感受性と理解力と創造性を育てる言語として、将来の世界共通語になる可能性があります。しかし、このことは、まだ日本人以外には、ほとんどの国の人が気づいていないと思います。
個別指導の対話型オンライン授業
おすすめ→ 個別指導の対話型授業「朝のオンラインスクール」
新型コロナウイルスによる学校の休校対応で、朝9時から午後3時まで個別指導の対話型オンライン授業。小1~中1の国語、算数数学、英語、理科、社会、読書、暗唱、図工、記述のうちから自由選択、1時間550円。
 

同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
教育論文化論(255) 

コメント欄

オノチャン 2014年7月6日 22時36分  
世界中に日本語学校を作ろう
世界中に日本企業を作ろう
日本語を世界の第2共通語にしよう




 

 






に日本企業を作ろう

コメントフォーム
世界共通語となる可能性を持った日本語 森川林 20100707 に対するコメント

▼コメントはどなたでも自由にお書きください。
なにぬね (スパム投稿を防ぐために五十音表の「なにぬね」の続く1文字を入れてください。)
 ハンドルネーム又はコード:

(za=森友メール用コード
 フォームに直接書くよりも、別に書いたものをコピーする方が便利です。
新着コメント1~3件
オンライン教育 森川林
 まえ先生、ありがとうございます。ああい 6/3
オンライン教育 まえ
朝オン、子供たちの力に驚かされることばか 6/2
言葉の森が考え 森川林
 コスモス先生、ありがとうございます。 6/1
……次のコメント

オープン教育 1~3件
オープンの川
鳥の村 1~3件
鳥の村
虹の谷 1~3件
虹の谷
過去の記事

過去の1~30件目を表示
■頭をよくする勉強、成績をよくする勉強(その1) 7月6日
■無理のきく勉強法(2)―だれでもできる暗唱の仕方 7月5日
■無理のきく勉強法(1)―構成図を使った作文の書き方 7月4日
■本日7月3日20時8分に、体験学習のファクスを送ってくださった方へ 7月3日
■暗唱で頭がよくなる―解く勉強から読む勉強へ 7月3日
■夏休み中も休まずに続けることが大事(生徒父母向け記事) 7月2日
■言葉の森の作文小論文受験コース 7月1日
■自給自足経済のもとでの教育 6月30日
■受験生は夏が勝負―公立中高一貫校受験生は家族の対話を 6月29日
■個人主義的教育を超えて―社会に貢献するための教育 6月28日
■日本をよりよい国にするために 6月26日
■小4までは、競争ではなく親の褒め言葉で 6月25日
■感動のはやぶさ 6月24日
■「作文の丘」の「戻る」リンクで改行が消えるバグを直しました 6月23日
■付箋読書の具体的な方法 6月23日
■FREE(フリー)という考え方―発表と交流のある作文指導 6月22日
■夏休みの読書感想文をどう考えるか 6月21日
■成長の途上に必要な無駄―遊びについて 6月19日
■暗唱用長文の誤字訂正 6月18日
■成長の途上に必要な強制と無駄―読書について 6月18日
■肉食獣の果たしてきた役割 6月17日
■言葉の森の教材はすべてHTML 6月17日
■暗唱用長文を課題の長文にも拡大(生徒父母向け記事) 6月14日
■構成図とツイッターの共通点 6月13日
■清書を発表展示会の形式にすることを計画中(生徒父母向け記事) 6月11日
■毎日の付箋読書、問題集読書、四行詩の自習 6月10日
■作文の目標は自分らしさ 6月9日
■上手に書ける子が、更に上手に書くことを目指すときの指導 6月8日
■誰もが熱中する面白い本 6月7日
■上手だが盛り上がりに欠ける作文を書く子の指導 6月5日
……前の30件
RSS
RSSフィード

カテゴリー
全カテゴリー

QRコード


通学できる作文教室
森林プロジェクトの作文教室

リンク集
現在作成中です。
Zoomサインイン
ソースネクスト
FJNBP-1337-6644-8260-5410




 
小学生、中学生、高校生の作文(2007年4月まで)
小学1年生の作文(9) 小学2年生の作文(38) 小学3年生の作文(22) 小学4年生の作文(55)
小学5年生の作文(100) 小学6年生の作文(281) 中学1年生の作文(174) 中学2年生の作文(100)
中学3年生の作文(71) 高校1年生の作文(68) 高校2年生の作文(30) 高校3年生の作文(8)
手書きの作文と講評はここには掲載していません。続きは「作文の丘から」をごらんください。