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知能を高める教育(その4) as/181.html
森川林 2007/09/05 09:52 
 抽象的に考える能力とは、現象の背後にある本質を考える能力です。
 先日、高校生の生徒が夏休みの化学の宿題を見せてくれました。どのページもほとんど計算問題です。確かにこういう練習問題を多数やれば、計算には慣れるだろうとは思いましたが、あまり知的な勉強とは思えませんでした。
 やればできる問題に取り組むのは、時間の無駄です。私がもしそういう宿題を出す立場の先生だったら、次のような宿題を出します。「この問題集を答えを見ながら読んで、自分が答えを理解できなかった問題だけを書き出してくること」。できる問題を作業的にやるのではなく、できない問題を自覚することこそが真の勉強だからです。ところが、子供も先生も親も、多くの場合、できる問題を解いている姿を勉強している姿と思いがちです。
 しかし、できなかった問題にも二種類あります。単に記憶していないためにできなかった問題は、本当の意味でできなかった問題ではありません。答えを見ればすぐにわかるような問題は、こういう問題です。そうではなく、本当にできない問題とは、その問題の背後にある本質がまだ理解できていない問題のことです。このような問題ができるようになったとき、人間の抽象能力が一つ前進したと言えるのです。
 これは、化学や数学のような問題に限りません。むしろ、学校の勉強では評価される機会があまりない分野にこそ、このような抽象能力が必要とされてくるのです。
 この抽象能力を高める一つの有効な方法が読書です。読書は、言語によって物事を抽象化します。しかし、先に挙げた夏休みの計算の宿題のように、抽象能力をあまり高めない読書もあります。それはどういうものかというと、現象こそ多様に見えるがその背後にある本質にあまり変化がない読書です。これは計算練習と同じで、見た目には次々と新しい問題を解いているように見えますが、やっていることの本質はもうすっかりわかっているという読書です。
 読書の目指す方向は、抽象度の高い読書、つまり難しい本を読むことにあると私は思います。また、自分が既に知っている分野だけでなく、未知の分野に読むジャンルを広げていくのが読書の発展の方向です。
 しかし、人間には成長に応じた発展段階があります。小学生のころから、難しい本や未知の分野の本を読ませようとすれば、かえって読書量が確保できなくなるというマイナス面の方が大きくなります。小中学生のころは、楽しい本や感動できる本を中心に、何しろ多読をするということを重点にする必要があります。多読によって、そのあとの読書の発展につながる言語能力の基礎ができるからです。しかし、単なる多読でなく、難読を志向した多読、つまり自分の興味の持てる分野で説明文や意見文に広がる読書をしていくことが小中学生の読書の課題となります。
 高校生や大学生のころは、難しい本を読める時期です。このころになると、難しいことそのものに挑戦したいという知的好奇心が旺盛になってきます。この時期に、歯が立たないような本に挑戦することで本当の読書力がついてきます。しかし、これもただ難読をするだけでなく、その後の新分野に広がるような未知のジャンルに広がる難読をしていくことが大切です。
 多読→難読→新読という形で、人間の抽象能力が形成されていくのです。(つづく)

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知能を高める教育(その3) as/180.html
森川林 2007/08/23 16:35 
 では、単に成績をよくするための勉強法ではなく、頭をよくするための勉強をするためにはどうしたらいいのでしょうか。
 それには、やはり簡単な例が参考になります。1を10回加えるときに、1+1+1+……と考える方法と、1×10と考える方法がありました。問題のレベルが低いときは、スマートな掛け算を考えるよりも、1+1+1+……と力技で計算して答えを出す方が早いことが多いのです。そして、日常生活のほとんどの場面は、この力技で処理できます。
 例えば、ある人数をいくつかのグループに分ける必要があった場合、人数が少なければ、だれかが数えて分けてしまうのがいちばん簡単なやり方です。10人を3つのグループに分けるときは、3人ずつ分けていき余った1人はどこかのグループに適当に入れれば済みます。
 しかし、百人を3つに分けるときに、これと同じ方法が取れるでしょうか。千人ではどうでしょうか。1万人ではどうでしょうか。人数が多くなったときにグループ分けする方法は、もっとスマートに考える必要があります。例えば、こういう方法です。
「それでは、1万人のみなさん。みなさんの誕生日を3で割って、余りが1の人はAグループ、余りが2の人はBグループ、余りが0の人はCグループに行ってください」
 こういう方法であれば、3万9千人の人を7つのグループに分けるなどという面倒なこともすぐにできます。しかし、日常生活では、そういう大人数を分ける必要が出てくることはまれなので、抽象的に考えるタイプの人よりも、単純に大声を出して行動力を発揮できるタイプの人の方が活躍することが多いのです。
 ところが、人間は成長するにつれて、だんだん難しい役割を担うようになります。課題が難しくなり守備範囲が広くなるにつれて、単に行動力があるだけの人よりも、思考力のある人の方が仕事ができるようになってきます。
 このように考えると、頭をよくするとは、抽象的な力を高めることだということがわかります。掛け算は、足し算よりも抽象的なので、扱う数が多くなるにつれて便利になってくるのです。
 人生も似ています。その人の生活範囲が狭くて単純なときは、行動力がいちばんです。しかし、複雑さが増すにつれて、抽象的に考える能力が必要になってきます。
 その抽象的に考える能力は、低いレベルの左脳教育ではなく、また、単に左脳の対極にある右脳教育でもなく、より高い次元の左脳教育なのです。

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知能を高める教育(その2) as/179.html
森川林 2007/08/20 15:40 
 勉強には、成績をよくするための勉強と、頭をよくするための勉強とがあります。
 成績をよくするための勉強とは、知識を追加する勉強です。頭をよくするための勉強とは、考える力をつける勉強です。
 しかし、入学試験に限って言えば、それが高校入試であっても、大学入試であっても、○○資格試験であっても、すべて知識の勉強でカバーすることができます。なぜかと言えば、出題範囲が決まっているからです。範囲が決まっている分野で、点数の差をつけるためのテストをしようとすれば、問題はどうしてもパターン化されます。テストに出される内容は、平凡で大事なことよりも、例外的で点数の差がつきやすいことが主流になってきます。(これが、現在のテスト中心の勉強の最大の弊害です)
 平凡で大事なことであれば、普通に勉強していれば十分です。しかし、例外的で差のつく勉強では、テクニックが必要になります。そのテクニックとは、現代の入試では、出そうな問題のパターンに慣れることです。
 ですから、逆に言えば、テストに合格するためのいちばん役に立つ勉強法は、過去問に当たることです。高校3年生で、よく、「過去問は実力がついてからやってみます」と言う人がいます。そうではなく、実力がないうちから、過去問に答えを書き込んで読んでおくのがいい勉強法なのです。
 さて、入学試験までは、このように過去問中心の成績をよくする勉強で間に合わせることができます。しかし、世の中には、過去問のない問題が次々と登場します。過去問も、予備校も、模擬試験もなく、突然目の前に新しい問題が登場するのが普通です。そのときに、成績をよくするための勉強しかしてこなかった人は、途方に暮れてしまうのです。
 考える力のある人は、新しい問題についても、自分なりに考えることができます。それが、抽象的な思考力です。つまり、問題を、それが問題となっている次元ではなく、一つ上の次元から考えることができるのです。
 仏陀は、ある村で、子供を亡くした母親から、「子供を生き返らせてほしい」と頼まれます。仏陀には、それができるかもしれません。しかし、子供を生き返らせたところで、問題は根本的に解決するわけではありません。世界中の子供を生き返らせ続ける展望がなければ、解決は場当たり的なものにならざるを得ないからです。そこで、仏陀は、「これまで一度も死んだ人を出したことのない家からケシの種を三粒もらってきなさい」と言います。ここに、「生き返らせる」「生き返らせない」という次元を超えた、当時可能だった最善の解決策があったと思います。
 第一次南極観測隊の西堀栄三郎は、南極に着き、いざ基地を建築する段になって、日本から釘を持ってきていなかったことに気がつきます。「基地を作ることを諦めるか」「日本まで釘を取りに帰るか」などという次元の選択肢を超えて、西堀氏は、並べた板に水をかけ、凍った水で基地を建設するというやり方を提案します。
 いずれも、具体的な低い次元の話では解決できなかったことが、より抽象的な次元では解決できたのです。抽象的な考えとは、「人間とはそもそも……」「釘とはそもそも……」という考え方です。
 この「○○とはそもそも……」と考えるためには、「○○とは」という抽象的なものを考える力が必要です。(つづく)

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