ゲストさん ログイン ログアウト 登録
 思考力を育てる暗唱 Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
記事 672番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/5/17
思考力を育てる暗唱 as/672.html
森川林 2009/11/01 22:06 


 記憶や反復や音読や暗唱が、理解や思考と相反するという考えに多くの人がとらわれています。例えば、丸暗記という言葉には、自分で考えない、表面的な知識だけ、というニュアンスがあります。暗唱も、この丸暗記と同じようなものだと多くの人が考えていると思います。

 しかし、記憶が、思考に対して弊害になるのは、その記憶が徹底していないときです。つまり生兵法の記憶、一夜漬けの記憶のときに記憶が弊害になるのです。消化され自分のものになった記憶は、思考を深める役割があります。

 例えば、九九というものを考えてみるとわかるように、ほとんどの人は、九九を消化しているので弊害というものを感じません。しかし、九九を覚えかけているときは、九九を使うことによって実感よりも劣る面が出ていたこともあったはずです。

 同様に、言葉も、覚えかけのときの言葉は、実感よりも劣る面があります。未消化の言葉によって、体験がかえって浅くなる時期があるのです。しかし、言葉が消化されたあとは、体験は言葉によって深くなります。


 暗唱は、言葉による物の見方感じ方考え方を蓄積することです。

 しかしもちろん、暗唱以外にも、言葉を蓄積する方法はあります。例えば、たくさんの話を聞くこと、たくさんの本を読むことです。多くの話を聞いたり多くの本を読んだりすることによって同じ文章に触れる機会を増やすことができます。つまり、同じ文章や同じ文脈に何度も触れることによって、理解するための言葉が表現するための言葉になっていくのです。

 この表現語彙と理解語彙には、大きな違いがあります。例えば、英語を読む力を10とすると、ほとんどの人の英語を書く力は1程度のはずです。誰でも名作を読んで感動することができますが、同じような名作を書ける人はほとんどいません。理解語彙のレベルと表現語彙のレベルは大きく異なるのです。


 消化された表現語彙を蓄積する方法として、日本人は暗唱というやり方があることを知っていました。九九、百人一首、いろはガルタ、素読などは、日本人が開発した教育の方法でした。

 しかし、この百人一首などに見られるような記憶反復の伝統は、戦後急速に失われ、それまでの記憶や反復の学習に取って代わったものは理解と思考の教育でした。ところが、理解と思考の教育は、能率の悪い一斉指導に結びついていたために基礎学力の低下を生み出しました。その学力低下に対する批判として、公文式や100ます計算のような記憶反復の方法が登場したのです。しかし、新しい記憶反復の方法は歴史が浅かったために、その方法が万能であるかのような行き過ぎも生み出しました。

 この記憶反復の方法と理解思考の方法を統合するのが、読書、作文、暗唱を結びつけた学習になると思います。言葉の森の学習ですが(笑)。

 さて、暗唱の本当の目的は、実は記憶ではありません。勉強を進めるための方便として覚えることを目標としていますが、覚えることそのものは決して重要なことではないのです。記憶力を高めることや記憶量を増やすことは、暗唱の副産物にすぎません。

 世間には、暗記や暗唱というものを、役立つ知識や文化的な伝統に結びつける傾向があります。例えば、「○○の首都は□□」というような知識を増やすような暗記や、平家物語や枕草子の一部を覚えるような暗唱です。むしろ暗唱を表現語彙として役立てようとするのであれば、自分がこれから書く作文に結びつくような現代文の事実文、説明文、意見文を中心に暗唱していく必要があります。

 しかし、こういうことよりも、暗唱の真の目的は、反復練習によって物事を把握する力をつけることだと思います。塙保己一が般若心経の約300字を毎日100回ずつ1000日間暗唱し、しかも晩年にいたるまで折に触れて暗唱を続けたということを見てもわかるように、宗教的な面を抜きにすれば、これが決して単なる記憶の練習だったとは考えられません。将来この暗唱の仕組みが脳科学的に解明されるようになると思いますが、当面は暗唱の目的は、記憶よりも理解や思考の方にあると考えておくことが大事です。事実、大人の人が暗唱を始めると、記憶力がよくなるということよりも、発想が豊かになるという感覚を持つことが多いと思います。

 ただし、どの学習にもバランスは必要です。言語と経験の間にもバランスというものがあります。ルソーは、子供時代に本を読みすぎて自分が言語先行型の人間になったことの反省から、自然教育の「エミール」を書きました。体験が伴わない時期に言語を吸収しすぎると、やはりバランスが崩れる場合があります。もちろん体験ばかり広がって言語が伴わない生活はあまり人間的とは言えませんが、言語が経験よりも大きくなることもやはり人間的な成長とは言えません。

 言葉の森の暗唱の自習は1日10分ですから、このようなアンバランスを生み出す心配はありませんが、日常生活の心がけとして、言語的な学習と並行して家の仕事の手伝いなどの経験の時間を増やしていくことは大事なことだと思います。


 対話と個別指導のあるオンライン少人数クラスの作文教室
小1から作文力を上達させれば、これからの入試は有利になる。
志望校別の対応ができる受験作文。作文の専科教育で40年の実績。

同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
暗唱(121) 

コメント欄

コメントフォーム
思考力を育てる暗唱 森川林 20091101 に対するコメント

▼コメントはどなたでも自由にお書きください。
つてとな (スパム投稿を防ぐために五十音表の「つてとな」の続く1文字を入れてください。)
 ハンドルネーム又はコード:

 (za=森友メール用コード
 フォームに直接書くよりも、別に書いたものをコピーする方が便利です。
同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
暗唱(121) 
コメント1~10件
優しい母が減っ 森川林
 娘さんの友達から怖がられているというお母さん、コメントあり 5/8
優しい母が減っ 娘の友達
娘は中3。私は自称甘い母親です。世の中の厳しい先輩ママたちか 5/7
学習グラフのペ 森川林
言葉の森の今後の方針は、デジタルなデータをアナログで送信する 5/6
森リンベストの 森川林
じすけ君、ありがとう。 統合失調症のような、また似たような 4/21
森リンベストの じすけ
こわばんは 今日は元気一杯、体験発表をさせて頂きます。 4/20
国語読解問題の 森川林
 あるとき、高3の元生徒から、「国語の成績が悪いのでどうした 3/28
今日は読書3冊 森川林
苫米地さんの「日本転生」は必読書。 3/25
共感力とは何か 森川林
言葉の森のライバルというのはない。 森林プロジェクトで 3/23
3月保護者懇談 森川林
 いろいろ盛りだくさんの内容ですが、いちばんのポイントは、中 3/22
中学生、高校生 森川林
 意見文の書き方で、もうひとつあった。  それは、複数の意 3/14
……次のコメント

掲示板の記事1~10件
言葉の森のYo 森川林
言葉の森のYouTubeチャンネルの登録者数が、1000人を 5/17
通学が普通、通 森川林
通学が普通、通信はおまけ、 オンラインは特殊な例外(笑)と 5/15
ブンブンドリム 森川林
 ブンブンドリムが、「31年の実績」と書いていたので、   5/15
基礎学力、総合 森川林
 勉強は、家庭学習で十分。  しかし、勉強の進捗状況をチェ 5/13
Re: 読解検 森川林
 ご質問ありがとうございます。  こういう質問ができる 5/10
男は、というか 森川林
男は、というか、自分は、あれこれ説明はしない。 聞かれれば 5/10
大事なのは理念 森川林
大事なのは理念だ。 損得や利害ではない。 遠くの星を目指 5/10
読解検定4月中 あうせれ
問3のAが×だと思いました。←「小学校低学年らしい男の子」と 5/8
マスクしない、 森川林
マスクしない、ワクチン打たない、消毒しない。 人類は、何十 5/7
まだ夜なのに、 森川林
まだ夜なのに、小鳥が鳴いている。 元気がよくていいや。 5/7

RSS
RSSフィード

QRコード


小・中・高生の作文
小・中・高生の作文

主な記事リンク
主な記事リンク

通学できる作文教室
森林プロジェクトの
作文教室


リンク集
できた君の算数クラブ
代表プロフィール
Zoomサインイン






小学生、中学生、高校生の作文
小学1年生の作文(9) 小学2年生の作文(38) 小学3年生の作文(22) 小学4年生の作文(55)
小学5年生の作文(100) 小学6年生の作文(281) 中学1年生の作文(174) 中学2年生の作文(100)
中学3年生の作文(71) 高校1年生の作文(68) 高校2年生の作文(30) 高校3年生の作文(8)
手書きの作文と講評はここには掲載していません。続きは「作文の丘から」をごらんください。

主な記事リンク
 言葉の森がこれまでに掲載した主な記事のリンクです。
●小1から始める作文と読書
●本当の国語力は作文でつく
●志望校別の受験作文対策

●作文講師の資格を取るには
●国語の勉強法
●父母の声(1)

●学年別作文読書感想文の書き方
●受験作文コース(言葉の森新聞の記事より)
●国語の勉強法(言葉の森新聞の記事より)

●中学受験作文の解説集
●高校受験作文の解説集
●大学受験作文の解説集

●小1からの作文で親子の対話
●絵で見る言葉の森の勉強
●小学1年生の作文

●読書感想文の書き方
●作文教室 比較のための10の基準
●国語力読解力をつける作文の勉強法

●小1から始める楽しい作文――成績をよくするよりも頭をよくすることが勉強の基本
●中学受験国語対策
●父母の声(2)

●最も大事な子供時代の教育――どこに費用と時間をかけるか
●入試の作文・小論文対策
●父母の声(3)

●公立中高一貫校の作文合格対策
●電話通信だから密度濃い作文指導
●作文通信講座の比較―通学教室より続けやすい言葉の森の作文通信

●子や孫に教えられる作文講師資格
●作文教室、比較のための7つの基準
●国語力は低学年の勉強法で決まる

●言葉の森の作文で全教科の学力も
●帰国子女の日本語学習は作文から
●いろいろな質問に答えて

●大切なのは国語力 小学1年生からスタートできる作文と国語の通信教育
●作文教室言葉の森の批評記事を読んで
●父母の声

●言葉の森のオンライン教育関連記事
●作文の通信教育の教材比較 その1
●作文の勉強は毎週やることで力がつく

●国語力をつけるなら読解と作文の学習で
●中高一貫校の作文試験に対応
●作文の通信教育の教材比較 その2

●200字作文の受験作文対策
●受験作文コースの保護者アンケート
●森リンで10人中9人が作文力アップ

●コロナ休校対応 午前中クラス
●国語読解クラスの無料体験学習