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作る学力と暗唱(その3) as/469.html
森川林 2009/04/29 09:48 
 暗唱には、知識を文脈と反復を通して生きた知識として身につけるという効用があります。
 そしてまた、暗唱には、記憶の容量を高めるというもう一つの効用があるようです。
 塙保己一は、十代後半のときに、般若心経約300文字を毎日100回、1000日間暗唱するという修行を自分に課しました。300字を1回読むのに1分かかるとすると、100回の暗唱には約100分かかります。この毎日100分の暗唱を約3年間毎日続けたのです。
 塙保己一は、群書類従という書物をまとめましたが、これは、保己一の膨大な記憶力がなければできなかったことでしょう。保己一の頭の中には、それまでに読んだ書物がほとんどすべて、すぐにアクセスしたり検索したりできる情報として整理されていたのです。
 なぜ、そういうことができるようになったかを考えてみると、保己一にとっては、記憶の容量そのものが大きくなったからではないかと思います。

 通常、人が無意味な文字列として一度に覚えられる言葉は7文字ぐらいだと言われています。これが短期記憶です。ところが、これが無意味な文字列ではなく文章のような意味ある文字列になると、文字列自体ががひとつのまとまりになります。
 例えば、ひふみ47文字を初めて読む人は、その文字列をたぶん一度では覚えられません。「ひふみよいむなや こともちろらね しきるゆゐつわぬ そをたはくめか うおえにさりへて のますあせゑほれけ」。並べられた文字列の意味がわからないからです。ところが、意味のある文字列が50文字程度であれば、一度で覚えることができます。例えば、「真ッ白い嘆かひのうちに、海を見たり。鴎を見たり。高きより、風のただ中に、思ひ出の破片の翻転するをみたり」(中原中也詩集より)。説明するまでもありませんが、「真ッ白い」「嘆かひのうちに」「海を見たり」などがそれぞれひとまとまりの言葉となっているので、そのまとまりを基準に考えると50文字程度の文字列が7まとまり程度の文字列に還元されるからです。
 ここまではだれでも考えつくことですが、実は、300文字ぐらいの文章も、見方を大きくすれば、50文字程度の文章のまとまりが7つぐらいあると考えることもできるのです。長文暗唱で300字の暗唱をするときは、たぶん頭の中で、50字程度の文をひとまとまりとするような仕組みが働いているのだと思います。
 そして、塙保己一は、この300文字の暗唱を毎日100分、1000日間続けることによって、いつでも50文字程度の文をひとまとまりの単語のように読み取る力がついたのではないかというのが私の考えた仮説です。同様の学習法、すなわち長い文章を何度も音読することによって理解する方法は、シュリーマンや本多静六も実行しています。
 暗唱には、このように、生きた知識を身につける効果とともに、記憶力そのものを高める効果もあるのではないかと思います。

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作る学力と暗唱(その2) as/468.html
森川林 2009/04/28 09:13 
 生きた知識とそうでない知識を比較するために、生きた現実と死んだ観念の違いについて考えてみます。
 実物のオレンジは、置いておけば、食べられる、腐る、芽を出すなどいろな可能性に取り囲まれています。しかし、絵にかいた餅は、いつまで置いておいても餅のままです。
 これと同様に、生きた知識は現実の中に位置づけられた知識で、死んだ知識は知識の一面を観念的に抽出したものということができます。例えば、生きた知識は人物の歴史の中で知る歴史上の知識で、死んだ知識は歴史の用語集などで知る知識です。
 この現実の中に位置づけられる生きた知識を身につける方法は、熱中や感動の中で知識を得ること、時間をかけて知識を得ること、文脈の中で知識を得ること、反復の中で知識を得ることなどです。感動して身につけたことは、いつでも自分自身の体の一部のように思い出すことができます。老人が長い人生の中で身につけた知識は、短い言葉でも多くの人を説得する力を持ちます。同様に、ストーリーの中で身につけた知識や、反復の中で身につけた知識は、いつでも使える知識になります。
 ここで話が少し複雑になりますが、知識の現実度が高まるにつれて、その知識は多くの可能性を持つようになります。それは、現実のオレンジが絵にかいた餅よりも、多くの可能性を持つことと同じです。この知識の持つ可能性が、思考の材料として使えるということです。いわば、知識が可能性という何本もの手足を持った状態で保存されているので、そこから多様な組み合わせができるようになるのです。可能性という手足の少ない死んだ知識は、「日本でいちばん長い川は」「はい、信濃川です」というような、単なる記憶の再現として使える一本の手足しか持っていない知識です。このような知識をいくらたくさん持っていても、これらの知識を組合わせて創造的に考えることはできません。死んだ知識は、組み合わせる可能性の手足の少ない知識だからです。
 ここで、暗唱ということを考えてみると、暗唱という勉強は、物事を文脈と反復によって生きた知識として身につける方法ではないかというのが私の考えです。
 言葉の森の作文の勉強の項目の中に、「長文実例」というものがあります。これは、生徒がこれまでに読んだ長文の中から、自分の意見を補強するのに使えるような実例を思い出して書くという練習です。長文暗唱が自習として定着していけば、この長文実例は、データ実例や昔話実例や伝記実例などと同じように、作文をより豊かにする材料として使えるようになると思います。
(つづく)

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作る学力と暗唱(その1) as/467.html
森川林 2009/04/27 09:51 
 解く学力と作る学力は、テストの学力と発表の学力と言い換えることもできます。また読む学力と書く学力と考えることもできます。
 これからの時代に求められるものは、読む学力ではなく、書く学力です。
 書く学力を構成する要素は三つあります。第一は、知識です。知識が書くための材料となります。第二は、思考です。材料となっている知識をただ伝えるだけでなく、その知識の組み合わせから新しいものを構想するのが思考の役割です。第三が、表現です。この表現は、単に右のものを左に移す伝達のような表現ではなく、新しいものを創造する表現です。
 新しいものを創造するために必要な知識は、単にテストのときに記憶を再現すればよいというだけの知識ではありません。考えるときに、いつでも自分の手足の一部のように使える知識となっていることが必要です。
 熱中して本を読むと、その本に書かれている内容や表現が、まるで自分のもののように使えるようになるということがあります。このときに、熱中して読んだ本の中で得た知識は、その本の文脈全体の中で把握されているので、自分の手足のように使える知識なのです。
 かつて日本では、歴史の学習は、人物の歴史を中心に学ぶようになっていました。その後、人物中心の歴史学習が科学的でないと批判され、現在の歴史学習は人物をあまり取り上げない味気ないものになっています。しかし、歴史の教科書や資料集に載っているような知識をいくら覚えても、そこから文章を書くときに使えるような生きた実例はあまり出てきません。それは、断片的に記憶する歴史の知識が、単にテストで再現するだけの知識となっていて、生きた知識になっていないからです。
 年をとった人の言葉は、何でもないように思えることの中にも深みを感じることがあります。同じことを若い人が言うよりも年とった人が言う方が説得力があるのは、老人の知識が、自分の生きた知識となって語られているからです。
 では、生きた知識とそうでない知識の違いはどこにあるのでしょうか。
(つづく)
(この文章は、構成図をもとに音声入力した原稿をamivoiceでテキスト化したものです)
マインドマップ風構成図
 記事のもととなった構成図です。

(急いで書いたのでうまくありません)

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作る教育と連休 as/466.html
森川林 2009/04/25 05:09 
 これまでの教育は、解く教育が中心でした。世間が多忙な時代には、それでもよかったのです。しかし、余暇が増える時代になると、解く必要がなくなった人の中には、暇を持てあます人が出てきます。そこで、消費によって暇をつぶすために、連休になると、レジャー、旅行、スポーツ、食事などで過ごすという発想が生まれてきたのです。
 作る教育が十分に行われていれば、暇なときには、作る余暇、又は作るために学ぶ(得る)余暇というような時間の過ごし方がもっと広がっていたと思います。
 学習に関して言うと、単なる得るだけの勉強は若い時期には必要です。しかし、年を取ってから、ただ学ぶことだけを目的にする学習は、勉強に対する回顧的な思いから来ているものだと思います。社会人の学習は、ただ学ぶことではなく、作ることや貢献すること、又は貢献するために学ぶことに意義があります。学ぶために学ぶという学習は、むしろ若者中心の学び方です。
 作る教育で行われる具体的な内容は、芸術、工作、思索などです。人間の恒久的な喜びは、消費の中にではなく創造の中にあります。つまり、手足や感情や言語や道具を使って新しいものを作り出すところに、人間でなければできない娯楽があるのです。

 今度の連休は、受験生にとっては、朝から晩まで学ぶ連休になると思います。創造的な人にとっては、作る連休、又は作るために学ぶ連休になると思います。それ以外の多くの人にとっては、遊ぶ連休になると思います。
 しかし、受験生でない学生のみなさんは、せっかく長い自由な時間があるのですから、英単語の暗記に挑戦するとか、気に入った文章の長い暗唱に挑戦するとか、古典の読書に挑戦するとか、有意義な時間の過ごし方を考えてください。
 一日中読書をするときは、次のようにすると飽きません。まず、面白そうな本を10冊ぐらい図書館から借りてきます。その10冊を並べて、1冊目を読んで飽きてきたら2冊目、2冊目が飽きたら3冊目と、次々と読んでいくのです。そうすると、多くの本を並行して読み進めていくことができます。しかも、たくさんの本を積んで読んでいるので、いかにも「がんばって読書をしている」という雰囲気になります(笑)。
 暇なときは、とりあえず読書をすると考えておくと、あとで必ずよかったと思うときが来ると思います。
(この文章は、構成図をもとに音声入力した原稿をamivoiceでテキスト化したものです)
マインドマップ風構成図
 記事のもととなった構成図です。

(急いで書いたのでうまくありません)

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記事 465番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/4/27
読む学力、書く学力。解く学力、作る学力(その2) as/465.html
森川林 2009/04/24 08:39 
 学力には、解く学力と作る学力があります。

 作る学力というものは、大学の入学時、あるいは大学を卒業したばかりの時点では、まだはっきりとはわかりません。しかし、社会人として何年かたつうちに、次第に作る学力を持っているかどうかということがその人の成長を左右するものになっていきます。
 そのような事情を理解するためにも、子供のときから、読む学力と書く学力の二つの学力をバランスよく育てていくことが大切になります。
 読む学力、解く学力は、主にテストで評価されます。書く学力、作る学力は、もともとテストの評価には向きません。むしろ、発表する場がいちばん必要とされます。
 かつて日本では、万葉集の文化がありました。和歌を作るということは、テストで評価される性質のものではなく、ただ発表すること自体が喜びとなっているものです。テストによる評価ではなく、作る喜びによって、日本中に和歌を作る文化が広まっていったのです。
 これからの教育や学校の雰囲気は、これと同じように、作る勉強、書く勉強、発表する勉強を中心にしたものになってくると思います。これまでの勉強は、主にテストのための勉強でした。しかし、これから勉強は、自分の知的な生産性を高めるための勉強、つまり向上心に基づいた勉強になっていきます。
 教育以外の分野でも同じような変化はおきます。医療は、病気を治すための医療から、より健康でより強くより美しくなるという身体の新しい価値を創造する医療が中心になっていきます。また仕事も、我慢して取り組む必要悪のようなものから、仕事自体が喜びとなるもの、新しい商品やサービスを創造するものへと変わっていきます。つまり、社会全体の雰囲気が、教育、医療、政治など多くの分野で、必要に迫られて行うものから、興味や関心に基づいて行われるより文化的なものへ変化していくのです。
 言葉の森の作文教室も、将来の教室作りをこの展望の中で考えています。しかしもちろん、いくら発表の場が大事だからといっても、小学生中学生の時期に発表することばかりが目的になってしまうと、逆に小さな完成品しか育たないということもあります。小学校時代には、小学生らしい作文を書くことだけが目的なのではなく、将来の土台となる作文の勉強することも目的だからです。
 従って、作文の勉強でも、三つのことが重要になってきます。第一は、理解する力をつけることです。長文の暗唱などで幅広い知識を大量に高速に身につけるような学習です。第二は、考える力をつけることです。これは構成図などを利用して自分の頭の中にある材料を高度に組み合わせていくという練習です。第三はもちろん、表現することです。これには高速な音声入力のような技術も含まれますが、もっと大事なことは、感動を表現することです。絵画や音楽などの芸術活動と同じように、作文は文章によって感動に形を与えるものとして考えられるようになるでしょう。
 言葉の森の作文教室も、この考えに基づいて、知的で感動のある教室を目指していきたいと思っています。

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